久保憲司のロック・エンサイクロペディア

ザ・バンド『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』 大都会じゃない、その周辺のそれまで誰も気にしてなかった大都市の周辺の郊外を歌って、ロックを終わらせたアルバム

 

ロックンロールがロックとなった日のことについては、ザ・フーの『トミー』で書きましたが、それではそんなロックがいつ終わったのか、誰が終わらしたか、ご存知ですか?

ロックンロールとロックの違いを簡単に書くと、ロックンロールとはプレスリーやリトル・リチャードがやっていたダンス・ミュージックです。

ロックは、そこから発展して、もう俺たちの音楽、そんな子供騙しの遊びの音楽じゃなく、なんか社会的に意義があるよねとなった音楽です。一言で言うと頭でっかちの音楽です。キース・リチャードの有名な言葉に「この頃の若い奴はロックをやれるけど、ロールがやれない」というのがありますが、その意味はこういうことなんです。

で、頭でっかちになったロックに、反発する意味で生まれたのがパンクです。パンクというのはロックンロールに戻ろうよという動きだったのです。パンクが「チンタラチンタラ長いギターソロ弾いてんじゃないよ、ファック・オフ!!」と言ってた本当の意味はこれなんです。

だからロックを殺したのはパンクなんですけど、ロックの中からもそういうロックを殺した人たちがいたのです。終わらす気はなかったと思いますが。

ザ・バンドというシンプルなバンド名の人たちのデビュー・アルバム『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』がリリースされた時ロックは終わったのです。

ザ・バンドというバンドが、ロック・シーンの中でうまく位置づけされていないのはこれが原因なんです。彼らの音楽って、CSN&Y、フォーク・ロック、ドクター・ジョン(これはちょっと似てるか)、イーグルスなんかと違うでしょ、一番似ているのって、スティーリー・ダンかな。

『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』そして次の『ザ・バンド』(通称ブラウン・アルバム)は、ロック史に残るマスター・ピースなんですが、なんとなくロック史の中でうまくハマっていないなと感じてしまうのはそういうことなのです。

プログレ、カンタベリー派という音楽に一番影響を与えたのはザ・バンドだと僕は思っているのですが、誰もそれに気づいていないと思います。ジャズ、クラシック、トラディショナルといった音楽をサイケデリックの一言で片付けずに上手くミックスさせた先駆者って、ザ・バンドだったと思うのです。その前にそう言うことを一番最初にやったのって、プロコル・ハルムとムーディー・ブルースなんですが、ザ・バンドのメンバーはこれらのバンドに影響されてたんじゃないですかね。彼らがイギリスに行った時、ニック・ロウのいたブリンズリー・シュウォーツが彼らの面倒を見たんですが(彼らを崇拝していた)、彼らが「ムーディー・ブルースに会わせろ」と言ったら、ニック・ロウは「あなたたちみたいな偉大な人がムーディー・ブルースみたいなポップ・バンドと会ってはいけません」と言ったそうです。

彼らの原点の話は置いといて、彼らの一番の偉大さはロンドン、NY 、ロスとかの都会じゃなくてもいい音楽を作れる、いや逆に都会じゃない方がいいんだということを証明したバンドなんです。

パブ・ロックに一番影響を与えたのもザ・バンドですが、ブルース・スプリングスティーンへの影響もデカいですよね。ベース・ヴォーカルのリック・ダンコの歌い方などスプリングスティーンそのものです。

大都会じゃない、その周辺の郊外の物語、それまで誰も気にしてなかった場所のことを歌にしてもそれが不変的になるんだということをザ・バンドは歌にしたのです。

 

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