久保憲司のロック・エンサイクロペディア

全曲解説 キンクス『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』 キンクスの魅力って、誰よりも早くにアイドルを卒業した事にあったのかもしれません 

 

キンクスの名盤ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ、名盤ということは誰もが知っていても一体どんなことを歌っているコンセプト・アルバムかということを知っている人はいないと思うので、全曲解説をやってみたいと思います。

ジョニー・サンダースはこのアルバムに入っている「ジョニー・サンダー」から啓示を受けてジョニー・サンダースとなったのです。

アルバム『フェイス・トゥ・フェイス』では、社会観察でアルバムを作り、『サムシング・エルス』ではそれをもっと色々な音楽スタイルで作り上げたキンクスが、イギリスのデヴォンをモデルとする架空の村を歌った9曲目「ヴィレッジ・グリーン」からこのコンセプト・アルバムはどんどんと膨らんでいきました。

「ヴィレッジ・グリーン」でどんなことが歌われているかというと、ヴィレッジ・グリーンで生まれた男は、有名になることを夢見てディジーという女性を残して、ヴィレッジ・グリーンを離れます。まっ「ジョニー・B・グッド」と一緒ですね。「田舎がいいな」と言う歌だけじゃないんです。もうそこには帰れないと言う思いも込められているのです。

都会から離れた田舎にヴィレッジ・グリーンはある
長いこと帰っていない
ヴィレッジ・グリーンを出る時、見えたのは教会の尖塔だった

ディジーという女の子に出会って、
古い樫の木の下で、キスをした
僕は彼女を愛してたけど、有名になることを夢見て
ヴィレッジ・グリーンを出たんだ

ヴィレッジ・グリーンが恋しい
素朴な村の人たちが懐かしい
教会、時計塔、
朝露と新鮮な空気と日曜学校が懐かしい

ヴィレッジ・グリーンの家々は、アンティークのようで
アメリカの観光客が来るような場所
写真を撮って「なんて綺麗んだ」というような場所
ディジーは雑貨屋のトムと結婚して
今は二人で切り盛りしてるんだ

ヴィレッジ・グリーンに戻ったら
僕はディジーと会って、お茶を飲んで、ヴィレッジ・グリーンのことを話すだろう
きっと笑いながら、ヴィレッジ・グリーンのことを話だろう

「ヴィレッジ・グリーン」

と歌われています。

 

では行きましょう。

 

一曲目「ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ」、僕たちはヴィレッジ・グリーン(イギリス)保存協会と歌われます。どんどんアメリカ化されるイギリスを嘆く歌であり、アメリカのプロモーターと揉めてアメリカ・ツアーが出来なくなったキンクスだったから、イギリスのものを歌っていきます。フー・マンチュー、シャーロック・ホームズ、などなど。

ではなぜドナルド・ダッグなんてキャラクターが出てくるかと言いますと、コックニーのスラングで、グッド・ラックと言う意味なのです。コックリーというのは発音が似ているとそれを暗号のように使います。ブリトニー・スペアーズがビール(ビアー)、カルバン・クラインがファイン(元気)、「最後の方の発音が似てるだけやん」と思わずツッコミたくなりますが、コックニーのスラングにはアメリカのものが多いんですが、ドナルド・ダックみたいに昔から、アメリカが侵略してきていたんだよと歌いたいんだと思います。

フランスとかイタリアとかのヨーロッパの物はなんとか阻止してきたのに、アメリカはちょっと言葉が似てるからって侵略してきやがってという気持ちもあるんでしょう。日本は戦争に負けたからかあんまりアメリカ的な物に反発がなかったですかね。アメリカが日本に持ってきたものって、民主主義と資本主義なんでなかなか抵抗出来なかったんだと思います。そして、このアルバムを歌うロック・スターは民主主義と資本主義の権化のような存在ですね。

 

2曲目「ドウ・ユー・リメンバー・ウォルター」

ウォルターとは誰か、もちろんイギリスのメタファーです。

Walter, remember when the world was young and all the girls new Walter’s name?

ウォルター(イギリス)が若い頃、若い子たちはみんなウォルターのことを知ってた

Walter, isn’t it a shame the way our little world has changed

ウォルター、 世界が変わってしまったのは残念だね

ウォルター、覚えているかい、雨と雷の中クリケットをしたことを
ウォルター、覚えているかい、裏庭で隠れてタバコを吸ったことを

ウォルター、覚えているかい、世界と戦おうと言ったことを、そしたら俺たち自由になれるって
俺たちはお金を貯めて
船を買って、出発しよう
でもそうならなかった
あの頃は分かっていたけど、今はどうだろう

ウォルター、お前は俺の夢の幻影でしかない
ウォルター、今の俺を見ても名前すら思い出さないだろうな
お前は結婚して太っているんだろうな
で、毎日家に帰って、8時半には寝てるんだろうな
俺が昔のことを話してもお前は退屈そうに、何も喋ることないんだろうな。
人は変わるけど、記憶は永遠なんだよ

 

そして、12弦ギターが軽快にリズムとリフを刻む「ピクチャー・ブック」につながっていきます。

歳をとったら、暖炉の横に座ってアルバムを見るんだと
昔、お父さんが撮ったお母さんの写真がある。
アルバム、昔、昔、愛し合っていたことを証明している

自分の誕生日の写真
アルバム、お父さんとお母さん、太っちょチャーリーおじさんが彼らの友達と酒を飲んでいる
サウスサイド・ビーチのベッド&ブレックファーストの写真
赤ちゃんの頃、あの頃はみんな幸せだった。
昔、昔の話

 

そして「ジョニー・サンダー」の歌、カミナリ・ジョニーなんだから、ロッカーズ(暴走族)なんでしょうね。

ジョニー・サンダーは雷を食べて、水の上に住んでいる
ジョニー・サンダーは誰も必要としない、お金もいらない
町のみんなの思いはジョニーには通じない、
すごい諭してもね
ジョニーは誰とも喋らない、戦い続ける
ヘレナ・デュエットだけは彼のために祈る

みんな説得したけど
オールド・ジョニーは俺はお前らみたいにならないと吠えた
ジョニーは高速の上を稲妻みたいに走る
スウィート・ヘレナだけが「神様、ジョニーを守って」と祈った

本当にジョニー・サンダースみたいな人ですね。

 

5曲目「ラスト・オヴ・ザ・スティームーパワード・トレインズ」

最後の蒸気機関車の歌なので、ハウリン・ウルフの「スモークスタック・ライトニン」のリフに合わせて歌われる。ハウリン・ウルフの頃は蒸気機関車が火花を飛ばし煙を吐く蒸気機関車が最新のマシーンだったわけですけど、この頃にはもうそんなのも時代遅れになっているね、時間が経つのが早いねという皮肉が込められている。そして、それと自分の現状を

俺がどこに行くのかも、俺がどこから来たのかも分からない

と皮肉っています。

ビートルズから始まった自分たちで曲を作り歌い演奏するアイドルももう蒸気機関車のように時代遅れなものとなった。それで、このアルバムを、映画のような、小説を読むような、オペラのような大人も楽しめるアルバムを作ったのです。

6曲目「ビッグ・スカイ」

この曲があるからヴィレッジ・グリーンとはヒッピーのコミューンみたいな村かなと思っていたんですけど、大人になってちゃんと全体を通して聴くとそんな歌じゃないですね。

 

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