久保憲司のロック・エンサイクロペディア

大久保青志『フェスとデモを進化させる』 「(音楽に) 政治を持ち込むなという人は、ロックを好きではない人なのでは? もっと日本のフェスも社会的になってほしい」(大久保)

 

パンクはもちろんだけれど、僕の自己形成に大きな影響を与えた雑誌と言えば『ロッキング・オン』です。今では「ロキノン」とか呼ばれて、中二病の代表みたいに言われてしまってますが、僕にとっては世界一カッコいい雑誌だったんです。というか、世界との戦い方を教えてくれた雑誌です。そういう言い方が中二病と呼ばれてしまうところなのかもしれませんけど、ロック・イン・ジャパン・フェスティバルなんて、まさに戦う方法のひとつではないでしょうか。好き嫌いはおいといて、フジロックに対する批評としてロック・イン・ジャパンがある。批評家・渋谷陽一イズムがすごく息づいている。

 

 

そんなロッキング・オンの中でも、特殊な存在として活躍されていたのが大久保青志さんです。なんせロッキング・オンを離れていた一時期には、内田裕也のマネジャーをやってたんですよ。中二病のやつに裕也さんのマネジャーが務まりますか? 普通の人間は、裕也さんに「バカヤロウ!」って怒鳴られたら、泣いて帰ってくることくらいしかできないでしょう。

ロッキング・オンというのは本当に不思議な会社だったし、もっと評価されてもいいと思うんです。日本のサブカルチャーを作ったのはロッキング・オンだった、そして現在の日本のアクティヴィストの源流は大久保さんなんじゃないか、そんなことを考えさせてくれる大久保さんの自伝フェスとデモを進化させるが出ました。とにかく色んな人に読んでほしい。これを読めば、どうして僕がロッキング・オンを支持してるのか、わかってもらえると思います。

誰も大久保さんのようにはなれない、でも、大久保さんみたいに生きることは、とっても大事なことなのです。誰にでも優しく、人に愛を与える大久保さんは、キリストの再来みたいな人です。キリストは神様なんで、世界に1人しかいない存在ですけど、キリスト教徒はキリストに近づこうと、誰にでもやさしく、全ての人に愛を与えるように努力しながら生きているわけです。とっても難しそうですけど、大久保さんがそうやって生きているんだから、できないわけはない。誰もが大久保さんのように生きようとすることはできる。そうやって、大久保さんのような人が増えれば世界は変わるはず。たぶん大久保さんがやっている運動とは、これなんです。

 

大久保青志(おおくぼせいし)

1951年、東京生まれ。市民活動家。音楽フェスから政治デモまでを担うイベンター。音楽家の権益を擁護する社団法人「日本演奏連盟」事務局長の祖父の元で育つ。20歳で渋谷陽一らと『ロッキング・オン』を創刊。在社中に内田裕也のマネージャーに抜擢され、日本初のロックフェス「郡山ワンステップ・フェスティバル」を主軸スタッフとして開催。1984年には、政治と音楽合体の野外イベント「アトミック・カフェ・ミュージック・フェスティバル」を主催。ブルーハーツや尾崎豊などの賛同を得て、日本ロック史に先鞭を記した。その後、刷新を図る社会党で土井たか子の秘書となり、1989年、東京都議会議員にトップ当選。人権擁護、環境保護、原発反対など、政治家既得利権とは一線を画したテーマを推進。國弘正雄、保坂展人、辻元清美の政策秘書なども務めた。2011年の東日本大震災を機に、音楽フェスと政治デモに特化したイベント会社「レーベン企画」の社長就任。直後の反原発集会には代々木に10万人以上を集めた。幅広い交友と人脈を生かして、現在はフジロック・フェスティバルのNGOヴィレッジ村長。

 

 

久保:長らく政治を見られてきた大久保さんは、今の政治状況についてどう思われていますか?

大久保:かつて、現・世田谷区長の保坂が国会議員だったときには、彼の質問に答える自民党の議員も、それなりに真摯な姿勢で政治を語っていました。ところが現在の国会を見ていると、なんだか「言葉の力」が失われてしまった政治になっていると思います。

久保:なぜ、そうなってしまったんでしょう?

大久保:政治家の質が、与党・野党ともに低下したことが理由のひとつでしょうね。その原因は小選挙区制度にある、という人もいますが。

久保:僕は、どうして大久保さんはずっと政治家として活動を続けないのかな?と思ってたのですが、政治家をやるっていうのは難しいことなんですかね? どうしても質が低下していってしまうというところがあるんでしょうか?

大久保:自民党の場合、2世議員が多いという問題があるし、野党の議員は、政治へと向かう姿勢に不純なものがあるように見えるというか、当選することだけが自己目的のように感じられてしまうことも多いですね。僕は、社会運動をやる立場から議員になったので、そう感じるのかもしれません。

久保:なるほど、そうかもしれませんね。自民党の2世議員ブームは鞄(お金)を持って生まれて来ているから、叩き上げよりクリーンということから力を持ってるのかなと思ってたんですが、違うんですね。音楽についてはどうでしょう。音楽も低下してきていると思いますか?

大久保:あまり思いません、むしろ音楽は、ラップを含め、人権や環境問題に対してしっかりと向き合っているように感じます。

久保:僕もそう思ういます。音楽に政治を持ち込むな、というようなリスナーの方が劣化してるんですかね?

大久保:そもそも、政治を持ち込むなという人は、ロックを好きではない人なのでは? また、音楽を含め表現の自由とは何か?と問うことを怠っているからでしょう。人権や平和について歌うのも自由、恋愛や日常を歌うのも自由ですよね。まあ、あまりそのあたりはよくわかってないですけど(笑)。

久保:わかっておられますよ! 文句をつけてるのは、ただのネトウヨみたいな人たちですよね。ああいう人たちって昔からいたんでしょうか?

大久保:今世紀になってからかな? グローバル資本主義による格差の拡大が原因かもしれませんね。

久保:やっぱそこからですね。維新とか、河村たかしみたいな政治家が出てきたのって。大久保さんがやっているような活動を通して、僕たちはああいうやつらに勝てるんでしょうか?

大久保:そこはわからないけど、暴力的には排除できないわけだから、言論によって対決していくしかないかな。中国政府による香港の支配については、右翼側も民主化闘争を支援しているわけだから、そういうところから民主的自由は普遍であることを学んでほしいですね。

久保:僕は今のアクティヴィストの運動の中で、いちばん重要な人物は元ロッキング・オンの大久保さんと、元ミュージック・マガジンの野間さんだと思っているんですが、その自覚はありますか?

大久保:その評価はびっくりです。とりあえず、音楽・文化をいちばん大切にしながら政治や社会に向かってきたらこうなったということでしかないので。

久保:僕が不思議なのは、評論家というかメディアの人って、口だけで、実際には行動しない人が多いということなんです。大久保さんが、そんなにも人のために何かやろうという気になるのはなぜなんですか?

大久保:そうですね、日高(スマッシュ社長)いわく「人助けの大久保」で、どうしても衝動的に動いてしまうんですよ。社会問題の方から、僕のところへやってくる気さえします。逃れられない境遇にいるんですよ。

 

 

久保:野間さんはマガジン出身ですけど、結局、面白いことをやったのって、大久保さんみたいなロッキング・オン流れの人だと思うんです。ECDもロッキング・オン・チルドレンですし。行動的な人をたくさん産んだのに、今はロキノンとか言われて中二病の代表みたいに思われてしまってるじゃないですか、そういうのどう思われたりしてます?

大久保:そうなんですか? 僕はあまり気にしてこなかったので何とも言えませんが、ロッキング・オンは自己表現を大切にしてきたメディアという面があるからかもしれませんね。

久保:ちなみに、日高さんと渋谷さんって正反対な性格だと思うのですが、なぜ仲いいんですかね?

大久保:仲がいいのかな? 長いつきあいの中で、お互いの欠点を分かっているからかもしれません。だからこそ、長くつきあうだけの存在価値を互いに認め合っているというか。

久保:そうなんですね。大久保さんが仲をとりもっている部分も大きいのではないかと思います。「人助けの大久保」の他にも、「誰にも嫌われない男」、「敵を作らない男」と自著にも書かれていますし、僕は「世界一優しい男」だと思うのですが、本当にそれだけでこの業界やってこれたのか不思議に思ってしまいます。他に何か秘訣とかなかったんでしょうか?

大久保:音楽業界だけでは、たぶん生きてこられなかったでしょうね。逆に、政治オンリーでもしかりで、議員生活は続けられなかったでしょう。社会運動が自分の根幹にあったからかな。あと、たまたまつきあいができた人に恵まれたんだと思う。

久保:今回出版された本のタイトルである「フェスとデモを進化させる」ということについてなんですが、どう進化させたいと考えているのですか?

大久保:イギリスやアメリカのフェスは、単なる音楽フェスというだけでなく、音楽が社会に与える影響について当たり前のように意識していると思うから、もっと日本のフェスも社会的になってほしい。今、気候クライシスの中でユース世代が「音楽を通して気候変動の危機を解決しよう」とライブを企画しているので、それが持続的に続けられるよう彼らにアドバイスしていきたいと考えています。デモに関しても、やはりもっと文化的に多様な形態にすべく、こちらも色々と企画提案していきたいですね。

久保:じゃあ、今年のフジロックでは、アトミック・カフェはどんな感じにやるんですか? 小泉進次郎さんは来るんでしょうか?

大久保:そうですね、福島事故から10年目なので、インパクトのある企画を考えたいところです。スマッシュから、環境省がアトミックカフェに興味を示しているということは聞いていますが、小泉さんについてはわかりません。コロナの状況もあるし、規模的にも従来のようにはいかないでしょうからね。

久保:でも、あんなことを本に書いちゃうと小泉さん来なくなるんじゃないでしょうか。忖度しないところが大久保さんらしくて最高でしたけど、大丈夫ですかね?

大久保:そうですね(笑)。

久保:やっぱり気にしてたんですか。

大久保:ただ、アトミックカフェとしては「政治家の出演に関して慎重でありたい」と考えているだけで、決して「絶対にダメだ」と言ったわけではないんですよ。

久保:あと、大久保さんにお願いがあるんです。マリファナ解禁に向けて動いてもらうこととかできないでしょうか?

大久保:そこですか?(笑) 以前にも1度、大麻の医学的有効性について国会で取り上げてほしいという相談を受けたことがあるけれど、なかなか難しかったですね。運動としてどういうことをすればいいかについてはいくらでも相談に乗れるけど、国会でどうこうというのは、ちょっと厳しいかなあ。

久保:それでは最後の質問です。かなり昔のことになりますが、当時ロッキング・オンの社員だった方二人が、いきなり言われもない容疑で警察に引っ張られたことがあったじゃないですか。あれって、公安が「アトミック・カフェと関連しているロッキング・オンって、どんな会社なのか?」って調べるための別件逮捕だったと気づいておられました?

大久保:ああ、そういえば同じ時期に一緒にアトミック・カフェをやっていたスマッシュの関係者も痴漢容疑で逮捕されたんですよね。その人は隻腕で、ひとつの手はつり革を持っていたのに痴漢なんてできるわけなかったから、ぶじに容疑は晴れたんですけど……おかしすぎるでしょう。公安って怖いなと思いました。

久保:時代も変わって、もうそんなこと起きないと思いますよ。これからも大久保さんの活動を見て、若い人たちが動き出していくことを期待しています。今日はありがとうございました。

 

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