久保憲司のロック・エンサイクロペディア

ストゥージズ 『イギー・ポップ・アンド・ストゥージズ』 イギーがなぜあんなSMチックな格好をしているのか、なぜ自分の体を傷つけるのか  [全曲解説(後編)]

 

前回からつづく

 

ストゥージズのデビュー・アルバム『イギー・ポップ・アンド・ストゥージズ』の全曲解説の後半です。他のバンドとの違いを感じとらえてもらっているでしょうか。

僕はギターのロン・アッシュトンが「デトロイトのグランデ・ボールルーム(MC5や彼らが拠点としていた場所ね)でギター・アンプをセッティングして、ギターを弾いたら、すごい倍音が生まれて、最高に気持ち良かったんだ」と言っていた通りのアルバムなんです。彼らのギター、そしてリズム隊のグルーヴ、その上を自由に動き回るかのようなイギーのヴォーカル、こんなロックンロール・バンド他にありせん。ロックンロールなんて言葉じゃ物足りない、なんか本当に革命が起こりそうな感じ、フランス革命、パリ・コミューンの時にどんな空気が流れていたのか僕はよくわかんないですけど、僕の中にははいつも彼らの音が流れてます。

 

 

4曲目「ノー・ファン」

“Well, maybe go out, maybe stay home”ってフレーズ、今を象徴しておりますな。なんで今誰もこの曲使わないんでしょうね。メイビーがダメすよね。

 

ノー・ファン ベイビー
ノー・ファン ベイビー

ウロウロしても楽しくねぇ
毎日がおんなじ
今日もまた気が狂いそう

楽しくねぇ ベイビー
一人でいるのは楽しくねぇ
一人で散歩するのは楽しくねぇ
他に好きな奴はいないんだ

外に行こうか、家にいようか
お母さんに電話しようか
さあ、さあ、
一人でいるのは楽しくない
僕を離さないで
僕は一人だと言っただろ

さあ、ロン、僕に聞かせろよ
僕の気持ちを奴らに伝えろ
やめろ、
さあ、
俺が言うぜ

 

後半のロンのギターに絡む感じを聴いてたらこれたぶんマスターべションの歌なんだと思います。マスターベーションの歌と言えばザ・フーの”Pictures of Lily”という傑作がありますが、まさか「ノー・ファン」が自慰の歌だったとは。

 

 

しかもこの歌カントリーを代表する名曲ジョニー・キャッシュの「ウォーク・ザ・ライン」のメドレーを下地にしてるんですけど、ジョニー・キャッシュに「あなたの『ウォーク・ザ・ライン』を下地にオナニーの曲書いたんですよ」ってジョニー・キャッシュに言ったらぶっ飛ばされそうですね。それともジョニー・キャッシュだから「そうか」って笑ってくれるんですかね。でもアメリカ音楽の帝王ジョニー・キャッシュにこんな失礼なこと言えない、出来ない。でもイギー・ポップだったらやりそうですね。

 

 

とにかく「ノー・ファン」は「ルイ・ルイ」のような世界一バカらしい曲です。でも世界一素晴らしい曲、「ルイ・ルイ」と同じようにこの曲が始まれば、世界は一つになる、バカで一つになる。

フーに話を戻しますと、アッシュトン兄弟はバンドを結成する前にフーなどを観にイギリス旅行に行っているんです。これだけでどれだけ甘やまれていたか分かりますよね。マーキーでフーを観たそうです。映画「欲望」のシーンのようにギターを壊して(映画ではバンドはヤードバーズでしたが、場所は同じマーキーですね)、そのギターの一部を持ち帰った主人公のように、ピートもアッシュトン兄弟の前でギターをぶち壊してそのカケラをデトロイトに持ち帰っていたら伝説になったんですけど、ピートはいつもギターを壊していたわけじゃないんです。メディアが来てる時とか、ここぞという時しか壊さないんです。だから初来日の時にギターを壊してくれたの本当に嬉しかったです。しかも何十年もギター壊してなかったのに、日本のために壊してくれたんです。あの時は本当に嬉しかったな。

 

5曲目「リアル・クール・タイム」

無限音階見たいな永遠と上昇し続けるようなことをやろうとしたんでしょうかね。永遠とループするような、でもあんまり成功はしてないけど、出だしのバキバキのギター音だけで俺は何回でもイケます。

歌詞は夜這いの歌ですね。

 

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