久保憲司のロック・エンサイクロペディア

『イン・ザ・フラット・フィールド』 バウハウスはノー・フューチャーというメッセージを気が狂っているということで表現したのです。壊れているのです。かっこいいのです

 

ゴシック・ロック、ビジュアル系の原点のバンドといえばバウハウスですが、この頃はデヴィッド・ボウイが偉大すぎて、今の若者の価値観に多大な影響を与えたこれらのバンドの原点はいつのまにかデヴィッド・ボウイだろうということになってしまっています。バウハウスとデヴィッド・ボウイは全く違う文脈なのに、大きな家族の中に入れられてしまっているのです。

同系統のように思われているキュアーは大復活し、再評価もどんどん上がっているのに、バウハウスはなぜか盛り上がらない。あの頃、一番かっこいいバンドと言えばバウハウスだったのに。バウハウスをどう評価したらいいのだろうと常々思っていたのですが、いまやっと気づきました。バウハウスは気が狂っているということを表現しようとしていたバンドだったのです。

デヴィッド・ボウイやイギー・ポップの音楽も気が狂っていると思わせることはありますが、バウハウスは始めからアウトサイダー(初めから気が狂っている人の)音楽なのだということを理解すれば、彼らの音楽がなぜこんなに尖っているのか分かると思います。

あのドンドコ・リズムに、ダニエル・アッシュのギンギンのギターはもうリフなんか弾いてないかのようにノイズを出しているだけのように聴こえます。です。それを支えるかのように唯一真面目に黙々とベースを弾くデビット・J、でもその目は完全に無の世界を漂っています。そんな男とドラムの超ハンサム、ケビン・ハスキンスは兄弟なんですから、萌えてしまいます。そしてケビンとは違った美形のピーター・マーフィーは始めから上半身肌で登場します。イギー・ポップもこの頃はちゃんと服を着て登場して、コンサートの終わりの方に脱ぐスタイルだったと思うのですが、ピーター・マーフィーが初めから服を脱いでいるのはびっくりしました。スターリンのミチロウさんは初めから全身裸で、タオルだけ肩にかけてステージに行ってました。それを見て銭湯行くのかと思ってました。ピーター・マーフィーのその姿はファースト・アルバム『イン・ザ・フラット・フィールド』のジャケットの通りなのです。裸の男がどこかの部屋で踊っている様子はコンテンポラリー・ダンスのようにも見えますが、あれは完全に狂っているのです。

一番最初にバウハウスの音楽を聴いたのは、T・レックスの「テレグラム・サム」でした。完全に壊れています。

 

 

グラムとは売れるための音楽です。アメリカ人のプロデューサー、トニー・ヴィスコンティが作った売れるための音楽、イギリス人の琴線にふれるように作られた音、あのリヴァーヴ感、ブギじゃないけど、ブギと呼ばれるグルーヴ、全部イギリス人が好きな物です。フットボールのアリーナのあの興奮の感じを音で再現したのが、グラムなのです。

Tレックスだけじゃ分からないですよね。スレイドも聴いてみてください。一緒ですよ。アメリカで売れずに困っていたジミ・ヘンドリックスをイギリスで売った元アニマルズのチャス・チャンドラーが次に考えたイギリスで売れる音、フットボールのアリーナでのスタンプのグルーヴ、チャントのようなメロディです。ラモーンズの一番の元ネタ、スウィートもそうです。

 

 

パンクのグルーヴというのはこうやって生まれたのです。一番イギリス人の好きな物、パンクがスキッフルのように一瞬にしてイギリス全土に広まったのは誰もが手軽に出来るからじゃなく、元々イギリス人が持っていたグルーヴ(血)を呼び起こしたのです。こういうフットボールに代表されるグルーヴの完成系がクイーンの「ウィ・ウィル・ロック・ユー」です。リズムだけ気にしてもダメですよ、音の空間の作り方、フットボールの会場でのあの空気感をどう再現するかが大事なのです。密なようで、密じゃないあの感じ、一体感を産みながらも俺だ!とも思わせる感じ、そうです、戦争の感じです。

 

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