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スタジアム論一吹田スタジアムでの出来事

昨年のオープン時は各方面から絶賛を受けた市立吹田スタジアムは、確かにサッカースタジアムとしてのボテンシャルは高い。4方向すべてのスタンドに屋根がつき、2つの電光掲示板の存在。何よりもスタンドとピッチの近さは、塩谷司をして「サポーターの顔が見える」と言わしめる。コンコースの広さ、ゲームの見やすさ、LED照明を使った明るさも含め、スタジアムの未来像を構築すると言ってもいい。

ただ、アクセスの件では、なかなかに厳しいスタジアムでもある。

 

この日はSIGMACLUBの発送日。いつもなら夕方までかかる発送作業だが、それではとてもじゃないがキックオフに問に合わない。どうしようか。もう、人海戦術しかない。知り合いの人、2人にお手伝いをお願いし、印刷会社にも、いつもより早く納品して頂いた。

「ああ、僕らはたくさんの人々に支えられている」

そんな実感を胸に、かなり早く発送を終え、大阪へと出発することができた。

ありがたい。きっと今日は、勝てる。

その予感が当たったことは、嬉しい。だけど、それとスタジアム問題はまた、別である。

 

このスタジアム、最大の課題はアクセスである。それは、メディアにはあまり大きく出てこないが、訪れた人々の間では口々にその問題が指摘されていた。特に大阪モノレールの万博記念公園駅からのアクセスは、坂道や階段などの存在もあり、かなり遠い。実際、1.4Kmもの距離がある。万博東口駅からも1.1Km。アストラムラインの広域公園前駅からエディオンスタジアム広島までが1Kmだから、その遠さがわかるだろう。

大阪の玄関口である新大阪駅からも、アクセスは困難だ。地下鉄御堂筋線に乗り換え、千里中央駅で大阪モノレールに乗り越え、万博記念公園駅まで。そこからの徒歩も含めると、50分弱もかかる。グーグルマップで示される広島駅からエディオンスタジアム広島までのアクセス時間が43分。遠い。本当に遠い。

金曜日は急いでいたこともあり、またカメラ機材の重さも考え、新大阪駅からJR茨木駅まで出て、そこからタクシーでアクセス。料金は2000円弱。経費節約が今季のテーマなのだが、致し方ない。

小雨のスタジアムは、床が濡れ、滑りやすくなっていた。重いカメラを抱えたカメラマンは誰もがこわごわと、滑らないように歩いている。転んで右ヒジを骨折したことのある僕は、歩くのが怖かった。でも、それはまだ、その後の出来事よりは全くましだったのだ。

 

本当に見事な勝利だった。当初はすぐにスタジアム内の記者室で原稿を書く予定だったが、ホテルにはまだチェックインできていない。午前0時までにチェックインしてほしいと言われていたこともあり、アクセスの問題を考えれは、間に合わない可能性がある。だからまず、スタジアムを出てホテルで原稿を書こうと思った。

ところが、タクシーが全くつかまらない。電話しても、来てくれない。らちがあかないから、もうモノレールの駅まで歩こうと決めた。カメラケースの重さは約20kg。きつい。でも、雨が降る中、真っ暗な道の中、歩くしかない。

スマホのナビで駅を指定。ところが、そのとおりに歩くと、なんとスタジアムのまわりをほぼ1周してしまうという体たらく。しかも、スタジアムの出口がわからない。どこに行ってもカギがゲートにかかっている。結局は、車の出口まで歩くことになった。歩き出す前、ほぼそこにいたのに、グルリと回ってもとに戻って、身体も濡れて。

万博東口駅の方がわずかに近いこともあり、ナビを再設定。頼むぞ、今度は。

本当に暗い。クルマは走っているのに、何故か寂しい。テクテク歩く。カメラマンもバテる。雨が体温を奪い、体力も失っていく。

普通なら15分くらい歩くのはそれほど苦ではない。だけど夜、雨の中で、歩いている人がほとんどいない道を、そして歩いたことのない道を歩くのはつらい。しかも、20kgのカメラバックを引きずり、パソコンや着替えなど約10kgの荷物が入ったリュックを背負って歩くのはきつい。カメラマンもパソコンを背負い、広角レンズのついた中型のカメラをぶら下げているため、負荷はかかっている。

トランペットを練習している人がいる中、駅についたのは23時すぎ。suicaを使って改札を通ろうとすると、カメラマンが「suicaがない」。彼女はリュックの奥底にsuicaをしまっていたのである。

普通なら、モノレールに乗ると決めている段階で、用意するもの。タクシーだって、大阪市内のホテルまで乗ろうとしたら、料金がとんでもないことになるし、茨木駅までのつもりだったから、suicaは用意しとけばいい。しかし、それができないのが、彼女なのである。もう、そういうことには、慣れている。いや、むしろできていると、びっくりしてしまう。

とにかく、2人とも疲れた。勝利の余韻などない。それよりもできるだけ早くホテルに行きたい。読者が監督や選手のコメントを読みたいはずだ。待っているはずなのだ。

だから、千里中央駅からタクシーに乗ろうと決めた。それによって、地下鉄よりも15分は早く、ホテルに着く。お金はかかるが、そうするしかないと思った。

 

今回はいろいろと学んだ。特に大切なことは、スタジアムへのアクセス。最寄り駅までどれほどかかるのか、だけではない。灯りはあるのか、人は通っているのか、お店はあるのか、にぎやかなのか。歩いて楽しい道だったら、辛くはないのだ。

もちろん、サポーターが家路につくピークの時であれば、寂しくないかもしれない。だが現実に、僕らと同じ時間帯に帰っていたサポーターも少なからず、いたのである。例えば、日産スタジアムから新横浜駅に戻ろうとすれば途中で様々なお店があり、寄り道がたくさんできる。人間、寄り道ができるってことは必要だし、それが楽しさを増幅させるものだ。

考えたいのは、スタジアムとはただ、スポーツをやるだけの場所ではないということである。

日本ではこれまで、スタジアムとはプレーヤーだけのものだった。見る側は添えものにすぎない。日本のスタジアムやアリーナ環境は国体をきっかけに整備されたものがほとんどだが、20世紀につくられた設備のほとんどは、見る人のための環境は全くといっていいほど考えられていない。

スタンドは雨が濡れたら座るのも難しくなる芝生だったり、炎天下だと熱くなるコンクリートの階段だけだったり。風雨を避けるための屋根もなく、ベンチが壊れても修復されない。アクセスにしても、見る人が行きやすく、楽しんで帰ることができるような仕掛けがほとんどない。

街中に多くのスタジアムがあるプロ野球において、戦略的に見る人が楽しくなる仕掛けを周辺環境まで含めて細かく考えられているのは、東京ドームが先駆者だ。それまでは、プロ野球ですら、はっきり言って見るためのスタジアム環境は貧弱だった。

ただ、先端を行っていた後楽園スタジアムが東京ドームになって、流れは大きく変化する。さらに、マツダスタジアムという見る側にきめ細かく配慮され、アイディアに満ちた場所が完成したことでカープの観客動員が飛躍的にアップしたことで、「スタジアムがお客を呼ぶ」ことが証明されたのだ。横浜スタジアムも改修の方向に向かっていると聞くし、野球は次の時代へと向かい始めている。サッカーもそううあらねばならない。アクセスも含めた、トータルな部分で。

吹田スタジアムは、サッカーを観るという環境であるならば、本当に素晴らしい。ただ、まだ完成したばかりだし、周辺の整備はこれからの課題。スタジアムとしての成長をこれからも見守っていきたい。

さて、見せるためのスポーツ施設としての理想は、両国国技館だと考える。このアリ一ナのコンセプトは、間違いなく「見せるスタジアム」の方向性だ。どこが、どう理想なのか。次の機会に述べさせて頂きたい。

 

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