SIGMACLUBweb

もっと失敗したい/宮沢りえさんの教え

 

 

創るということは、決して簡単ではない。それは0から1を創ることだけでなく、1に1.5を積み上げることも同様である。たとえどんなに微少なことであっても、創る・積み上げることは並大抵のことではない。そこには、大なり小なりの創造性がいる。

積み上げる。この言葉を、サッカー界の人々はよく使う。だが、果たしてその言葉の意味をしっかりと理解しているのだろうか。ただ漠然とトレーニングをやっているだけでは難しい。それは積み上げではなく「こなしている」に過ぎない。ただ漫然とやっているだけでは、そこにクリエイティブは生まれない。クリエイティブがなければ新しいことは生まれず、積み上げはできない。

ヨンソン監督が今やっているトレーニングは、積み上げというよりも今まで存在していたベースを修復している作業だといっていい。言っていることはほとんど基本。だが、その基本の部分にヒビが入っていたからこそ、現状が存在しているわけだ。そのことに、気づいていた人がどれだけいたか。いや、気づける人がいたら、それは神の視点を持つスーパー・アナライザーだろう。

ベースは非常に重要である。積み木を積み上げる時も、最下層にある基礎部分を確立させないと高く積み上げてもぐらついて崩れてしまう。そこにヒビが入っていることを知っていれば、その修復にまずはかからねばならない。それは今勝つためだけでなく、未来の勝利のために必要なことである。

ベースのヒビの修復は、すぐにできることではない。だが、1度はやれていたことでもある。真摯に取りくめば、必ずできるはずだ。だが、その上に何事かの新しいものを積み上げないと、未来の勝利は確実にならない。この世界では、停滞は後退と同じである。

そして、この「積み上げ」に必要なのは、監督のマジックではない。もちろん、監督の力も必要ではあるが、やるのは選手である。選手がプラスアルファを0.1でもいいからベースに積み上げようとしなければ、監督が何を言ったところで無駄だ。一方で、指導する、いや演出する側もまた、選手のクリエイティビティをどう引き出すかを考えることも重要だろう。創造性がアイディアを生み、その相互作用が大きな力をつくりだす。たとえば森島司(写真)は広島での有力なクリエイター候補だが、彼の力を引き出す環境プラス森島自身の試行錯誤なくして、彼がピッチの中で芸術を醸し出すことはできない。

そんなことを思ったのは、宮沢りえさんを取り上げたドキュメンタリー「プロフェッショナル・仕事の流儀」(NHK)を見たからだ。

(残り 2455文字/全文: 3517文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

1 2
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ