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選手を活かす形を探せ/コンバートの是非(無料記事)

巨大な才能を秘める野上結貴。彼の力をもっとも発揮できるのは、ボランチか最終ラインか、それとも。大いなる興味である。

 

C大阪の躍進には様々な理由はあるが、トップ下に山村和也を置いたことが重要なブレイクポイントだったことは、異論はないだろう。ロンドン五輪世代で、同年代では常にトップを走っていた彼ではあるが、鹿島入り後は低迷が続き、試合に出ても目立った活躍ができず。移籍したC大阪でも昨年は試合に出てはいたが後半はベンチスタートに甘んじ、絶対的なレギュラーの座を確保できずにいた。CBとしてもボランチでも、悪くはない。能力は高いのだが、「悪くはない」という感覚では、ポジションがとれない。

だが今季、尹晶煥監督が彼をトップ下にコンバート。「鳥栖の監督を務めていた時代から、山村にトップ下でプレーさせれば面白いのではないかと考えていた」と指揮官。しかし、その判断に確信をもっていたわけではなく、当初はオプションの域を出なかったという。

転機は苦戦から訪れた。

第2節の対浦和戦、ほとんどいいところがなかった戦況を変えようと、尹監督が73分に山村をトップ下に投入。彼がこの位置に入ったことで、一気に攻撃が活性化され、チーム全体に躍動感が確かに加わった。1−3と敗れたとはいえ、ここで手応えを感じた指揮官は、柿谷曜一朗や清武弘嗣といった手練れをサイドに回し、山村を中央の攻撃的な位置で使い続ける。このコンバートが攻守両面でチーム戦術を大きく機能させ、第3節から6試合負け無し。優勝を争うC大阪の原動力となっている、

彼のコンバートがどういう効果をあげているかは、こちらの記事に詳しい。記者の小田尚史氏の文章を引用しよう。

 


長身だが、足元の技術も高いところ、懐の深いキープ力、DFにも当たり負けしないフィジカル、サイドからのクロスに合わせる高さ。彼が持つそれらの武器は「前線でこそ、より生きる」と指揮官は判断した。

さらに、本来はCBやボランチとしてここまでプレーしてきただけあって、痒い所に手が届く守備もまた、彼の長所だ。「CBをやっていた時、前の選手にこのタイミングでプレスに行って欲しい、というタイミングで行くように心がけています」と話すファーストディフェンダーとしての貢献も非常に大きい


 

決してスピードのあるタイプではないし、中村俊輔のような決定的なスルーパスも、宇佐美貴史のようなドリブルもない。だが、186センチというサイズとボールコントロールの巧みさによって、前線に「ため」ができた。ファンタジーを持っているタイプではないが、確実にボールをつなぐことのできる技術の高さもあり、さらに得点能力を備えていた。ワイドには柿谷や水沼宏太、前後には杉本健勇やソウザといった破壊力に満ちたタレントがいるのだが、山村のような確実性のある選手が彼らの蝶番のような役割も果たすことで破壊力は倍増。その上、山村がファーストディフェンスをやりきることで、伝統的に弱さのあった彼らの守備も改善された。

同じような成功例に、広島・柴崎晃誠の名前もあげられよう。本人も「できない」といっていたシャドーの位置に、森保一監督(当時)は思い切ってコンバート。彼がシャドーに入ったことでのメリットは敢えて書かないが、この配置がチームにとっても彼自身にとっても大きなメリットになったことは、結果が証明している。

実は広島は、多くの選手たちを「コンバート」で成長させてきた実績を持つ。実例をあげておこう。

風間八宏/トップ下→ボランチ、柳本啓成/サイドバック→CB、久保竜彦/トップ下→FW、服部公太/トップ下→左ワイド、森崎和幸/トップ下→ボランチ(ユース時代)、盛田剛平/FW→ストッパー、李漢宰/ボランチ→右ワイド、清水航平/FW→右サイド、森脇良太/右ワイド→ストッパー、高萩洋次郎/ボランチ→シャドー

これらの例から考えても、サッカーには「適正ポジション」は確かに存在している。それは選手の「やりたい位置」との整合性がなかったとしても、指導者としてはトライするべき案件なのだ。山村のトップ下コンバートについては、本人はもちろん、尹監督自身が「成功率は五分五分」と語っていたように、絶対的な確信があったわけではない。かつてトップ下からボランチへとポジションを変えた名波浩にしても、当初はかなり抵抗感があったと聞く。それでも、結果が出れば選手は納得するものだ。自分のことを誰よりもわかっていないのは、実は自分自身。自分では見えないところを掘り出すことは、指導者の役割である。

今の広島にも、コンバートによって起用されている選手がいる。野上結貴と丹羽大輝である。

今のところ、野上のボランチが機能しているとは思えない。彼のストロングである強さや速さ、そして攻撃力がこの位置で爆発している感はない。鳥栖のようなロングボールを豊田陽平に集めるような攻撃をしてくるチームであれば野上を最終ラインの前に置く意味はあるが、地上戦を戦ってくるチームを相手に、野上は居場所を失っているように見えたこともあった。ただ、彼の中盤でのプレーが全く機能していなかったならば、8試合で11ポイントという成果をあげられるはずがない。まして4試合1失点という守備での結果が生まれるはずもない。

野上のベストポジションは、果たしてどこなのか、

普通に考えるならば、ずっと経験を積んできたセンターバックではないかと、誰もがそう思う。だが、実はそれは違うのかもしれない。

たとえば、ずっとFWをやっていた盛田剛平のペストポジションは実はストッパーだった。かつて盛田剛平に関してミハイロ・ペトロヴィッチは「(盛田)剛平がFWだった?そのこと自体が間違いだ」と真顔で言っていた。長くやっているから正しいのではなく、能力に見合ったポジションがそれぞれの選手にはあるということだ。そしてそれを正確に見極めることができるかどうか。難しい。しかし、ここを見極めなければ、選手もチームも成長しない。

野上の場合、ボランチでプレーしたことは昨年までほとんどなかったわけで、ここで力を発揮するには時間がかかるのは当然。今はそれほど目立っていなくても、戦術的なタスクが変化すれば全く違う形が生まれる可能性もある。彼のベストポジションはボランチかもしれないしCBかもしれない。他かもしれない。FWだってトップ下だって、彼はやれる可能性を持つ。それほどの巨大な才能を、彼は持っているのだ。その力を100%発揮できるポジションはどこか、まだ開発されきっていないと考える。

一方のコンバート組である丹羽大輝はどうか。慣れ親しんだCBからサイドバックに位置が替わったとはいえ、以前にプレーしたことがあるポジションだったこともポジティブだった。守備だけに止まらず、大宮戦でのアシストでも証明されているように、予想以上にクロスの質もいい。今や多くの攻撃が丹羽のいる右サイドから生まれている。間違いなく、彼のコンバートは成功だったと思う。

選手たちが力を存分に発揮できる場所はどこか。

野上はボランチがベストか。茶島雄介は左サイドバックで覚醒するのか。森島司はトップ下かボランチか、松本泰志はどうか、イヨハ理ヘンリーはセンターバックかサイドバックか。柏好文とミキッチは、サイドバックでもやれるのか、アンデルソン・ロペスとフェリペ・シウバはFWかサイドハーフか。

J1残留のためには、彼らのベストポジションを考える必要がある。残り8試合とはいえ、考えることをやめるわけにはいかないのである。それは、フォーメイションも含めて。

 

(了)

 

 

 

 

 

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