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マツダスタジアムでカープの試合を見に行ってきた2(無料)

エディオンスタジアム広島もライブ感に満ちている。たとえば試合開始90分前前後、選手たちのバス待ちをサポーターが行っている光景は、まさにサッカースタジアムならではだ。

 

スタジアムに入ると、別世界。これは、興行としての第一歩である。

球団やクラブにとって試合とは、特にリーグ戦は日常かもしれない。だが、お客さんにとっては非日常である。ハレである。そこでギャップが生まれてしまうと、全てのイベントは空回りしてしまう。

かつての広島市民球場は、この「ハレ」の演出が決して上手いとはいえなかった。だが、マツダスタジアムは違う。それはなんといっても、スタジアムを1周するコンコースの存在だ。グラウンド側には屋台的な売店、逆サイドには店舗がズラリとならび、カープうどんだけではなく、グルメで観客を楽しませる。いたるところに薄型テレビが配置され、トイレや食事のために立った時も野球をテレビで見ることができる。トイレの美しさはもちろんだし、何よりも屋根がついているため、雨になった時の逃げ道ともなる。コンコース内からほとんどの場所でグラウンドが見れるからだ。

このスタジアムは常に「グラウンド」と「スタンド」の間の臨場感を大切にしている演出力を感じる。たとえ試合前であっても、練習で聞こえるバットの音。スタンドから沸き上がる歓声。視覚が違うものを捉えていたとしても聴覚で感じるグラウンドの空気。カープうどんを買うために並んでいても、ちょっと振り向けば緑色のグラウンドが見える。いつでもどこでも、「スタジアムに来た」という感覚が肌に突き刺さる。

このコンコースのプランが浮上した時、賛否両論が渦まいたと聞いているが、今や多くの新設スタジアムがこのスタイルを模倣している。たとえば吹田スタジアムも、グラウンドを一望しどこからでもグラウンドが見れるコンコースを設置し、歩くだけで楽しいスタジアムを実現しているわけだ。

たとえば甲子園球場にも店舗が並ぶ「コンコース」は存在するが、グラウンドを見ることはできない。東京ドームも橫浜スタジアムも同様だ。サッカーでも「試合が常に見れて、グルメやショッピングも楽しめる」機能性を持つコンコースを持つスタジアムは、吹田スタジアムを除いて体験していない。マツダスタジアム式スタイルは、だから画期的なのである。

ただ、超満員のマツダスタジアムでしかも小雨模様となると、本通り(広島のアーケード街)の広さとほぼ同じだと言われているこのコンコースも、さすがに人であふれかえっていた。歩きにくいことこの上ないが、それはスタジアムのせいではない。でもとにかく、カープうどんを。だが、とんでもない行列が。うわー。カープうどんのオペレーションは素晴らしく、行列に並んでいてもわりと早くありつけるのではあるが、何重にも折り返し、ズラーーーーーーっと人が待っている姿を見ると、もしかしたらプレーボールに間に合わないかもしれない。それはイヤだ。歩いていると、大音量の「それゆけカープ」だ。テンションがあがる。のんびりなんて、していれらない。というわけで、おにぎり弁当を購入。妻は大ファンである丸佳浩のお弁当を買い、スタンドに戻った。

それにしても野球の応援歌は、実に「日本」を感じる。「六甲おろし」にしても「闘魂こめて」にしても、日本人として慣れ親しんだメロディだ。そして歌詞もまさに日本であり、昔ながらの重厚感もある。「それいけカープ」は1975年、カープが優勝する時につくられた公式の球団歌であり、帽子を赤色に変えさせたジョー・ルーツ新監督の改革の意思をくみ取る形でつくられたもの。それまでの「広島カープの歌」(現在は「勝て勝てカープ」として一部歌詞を変えて歌われている)の美しいメロディラインと比較して雄壮なのも、当時のカープ改革にかける意気込みが感じられる。

歌詞を書いた有馬三恵子さんは、1967年の「小指の思い出」(伊東ゆかり)や、後に森高千里がカバーした「17歳」や「純潔」、「色づく街」など一連の南沙織作品を手がけた大作詞家。作曲の宮崎尚志さんは「さびしんぼう」などの大林宣彦監督作品において音楽をてがけ、コカコーラの有名な初代CMソング「スカッとさわやかコカコーラ」も作曲した名作曲歌。凄い方々の手によってつくられた「それいけカープ」の勢いにおされ、気持ちが少しずつ臨戦態勢にはいる。これもスタジアムでなければ、ライブでなければ、味わえない心地よさだ。

試合内容については、割愛する。雨具を着ていてもずぶ濡れになるような雨では、コールドゲームも仕方がない。カープが勝ったことは嬉しいが、結果は正直、あまり関係なかった。実に楽しかった。今、多くの娯楽が世の中に満ちている中で、それでもスタジアムに足を運ぼうと思うのは、ライブとしての素晴らしさ。スタジアムそのものが「エンタテイメント」として機能しているからだ。そしてそれは、歌舞伎座や両国国技館で感じた「器としての娯楽」に通じるものがある。

さあ、今日は川崎F戦。エディオンスタジアム広島そのものは、「器としての娯楽」を考察して造られたわけではないが、クラブが努力を積み重ね、J開幕時とは比較にならないほど楽しい場所となっている。筆者はここでは「楽しむ」側ではないが、全力で取材し、全力でレポートしたい。クライマックスシリーズも気になる方は多いだろうが、サンフレッチェ広島にとっても非常に重要な試合であり、イベントも数多く準備されている。ぜひ、エディオンスタジアム広島にお越し下さい。

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