【2018年紫熊の勇士】森崎和幸/銘刀の8番
吉野恭平は真顔で言った。
「カズさんは怖いっす。弄る?できません。優しいんですけどね」
塩谷司や千葉和彦らにしても、カズに対してうかつには行けない。なのに、最近の若者たち、松本泰志などは森崎和幸を弄りに走るらしい。若さとは偉大である。
昔から、弟・森崎浩司のまわりには人が集まり、その太陽のような笑顔で明るさを振りまいていた。一方、カズは寡黙で徒党を組むことはなく、1人で淡々とトレーニングに打ちこむ。まるで修験者のような雰囲気を醸し出すカズに対して、周囲は尊敬を感じつつも遠巻きに見つめているという印象が強い。今の広島においても、最もカリスマ性を持っているのは8番だ。たとえ日本代表の経験がないにしても、カズは今も広島で、いやJ1で屈指のテクニシャンであり知性を持つドクトルである。
今年で37歳を迎えるカズは、城福浩監督と池田誠剛フィジカルコーチが課すトレーニング・メニューに「ついていくのがやっとです」と言って笑った。だが、その言葉とは裏腹に、8番は活き活きと練習の中で自身の存在をアピールしている。トレーニングから浴びせる深くて鋭い日本刀のようなタックルも健在。「またまだ遅れてしまっているのでファウルになってしまう」と言うが、一方で「コンディションがあがってくれば、ノーファウルでボールを奪える」と自信を見せる。チーム最年長の彼が、コンディションと戦術深化の二兎を追う新指揮官の練習に対して黙々とチャレンジしている姿があるからこそ、チームは一つになって生真面目にやり切ろうとする。池田コーチが「このチームは真面目ですね」と称賛する伝統的な広島の空気は、8番が形成しているといっていい。
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