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【青山敏弘】無念※無料

歓喜に湧いた5月18日から6日後、広島中を悲嘆に暮れさせる知らせが届いた。

青山敏弘、日本代表から離脱。クラブからのリリースによれば、理由は右膝痛だということ。

「しばらく代表を離れていて、今回本番直前のこのタイミングでチャンスがもらえた中、チームにも入れずに怪我で断念することになり 非常に残念です。チームの皆には日本のために頑張ってほしいですし、僕も一日本人サッカー選手として日本代表を応援します」

日本サッカー協会から発表された青山のコメントには、彼らしい情熱がこもっていた。たとえ自分はピッチに立てなくても、魂をそこに届けたい。仲間の背中を支えたい。広島でいつもみせている、彼らしい「フォア・ザ・チーム」のコメントだと思う。

だからこそ、辛い。これまで彼を苦しめてきた左膝ではなく、右膝が傷んだとのこと。もちろん心配ではあるが、筆者が彼のかわりに膝の痛みを引き受けてやるわけにもいかない。ただただ、無念である。

日本代表をずっと取材している河治良幸記者が、こんなツィートをしてくれている。

かつて彼は、青山のパスを何度もうけてきた。2015年、ホームでの仙台戦。自陣PA前から60mのロングパスを通し、浅野の俊足を活かしてゴールを陥れたシーンは忘れられない。そういう素晴らしいパフォーマンスを日本代表でも見られるのではと期待した。広島の人々は特に。だが今回については、その思いは潰えた。

青山は自分がもっとも辛い時、心配する周りの人々の気持ちを和ませようと、いつもよりも明るく笑顔になるものだ。2009年、左膝半月板の手術を受けて全治5カ月の診断を受けた彼を見舞った時のことだ。彼は満面の笑顔で筆者を迎え、トレーニング場では見せないような明るい表情で言葉をかわした。「心配ない。大丈夫」。大丈夫ではなくてもそう言うのが、青山敏弘という男だ。

浅野はこの青山の言葉を、トレーナー・ルームで聞いたという。涙もろい拓磨のことだ。尊敬すべき先輩の言葉に、涙腺が決壊したかもしれない。できるならば、彼の意志を引き継ぎ、ワールドカップに行ってほしいと願う。青山が言うように、広島中が応援している。

青山だけでなく、今野泰幸や小林悠など西野朗監督が期待していたJリーガーが次々と負傷によって日本代表に参加できないという事態は、深刻に考えないといけない。過酷な日程、5連戦や15連戦。それでいて、強度の高いプレーが求められる状況。しっかりと自己管理をしている彼らがケガのために世界の舞台に立てないこの事実は、厳しすぎるこのスケジュールが遠因となっているのは明白だろう。たとえターンオーバーなどの対策をうったとしても、強度の高いトレーニングが全くできない状況ではコンディション調整には大きな壁となる。仕方ないと思考停止するのではなく、選手の肉体を守ることは顧客第一主義に通じめとキモに銘じて、Jリーグはぜひ、アイディアを出し、議論してほしい。

青山のケガの状況はわからない。チームに戻り、ドクターの診断を改めてうけることになるだろう。そしてその上で負傷箇所や全治日数をクラブが明示することになる。クラブがケガの事態についてリリースしないこともあるが、それは軽傷の証拠だ。早い日数でトレーニングに参加できるようになるのか、それとも復帰まで時間がかかるのかもわからない。C大阪戦でのパフォーマンスを見れば、ケガを抱えているとは思えないほど、動きに切れはあった。躍動感も見えていた。あれだけのプレーを見せていても、ケガを抱えていたのだ。人間の身体というのは、難しい。

池田誠剛フィジカルコーチが語っていた言葉を、ここでご紹介しよう。

「ネガティブな状況は、どういう場合でも起こりうる。だけどかつて岡田(武史現FC今治社長)さんに、こんなことを言われたんですよ。ネガティブなその状況になるのは理由がある、と。壁が生まれるということは、思い通りにいかないってことは、何らかの意味があるんだ、と」

日本代表にとっても、そして青山敏弘自身に、噛みしめてほしい文言である。

「アオさんほどの人があれほどの努力を重ねている。並の人間が並の努力をしていてはかなわない」

稲垣祥がそう言ってあがめるほどの男である。きっと、きっと、また立ち上がってくれる。

 

(了)

 

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