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【SIGMACLUB 7月号明日発売】稲垣祥/アナクロであり、 そしてモダンであり※無料立ち読み版

運ではなくて実力がない

幸運は力で引き寄せるもの

 

サッカー選手の仕事とは何か。ふと、そんな ことを考えることがある。それはきっと、「サッカー選手の」という枠を取り払い、「仕事とは何 か」という大きなテーマが自分自身の胸のうちに存在するからなのだろう。

働き方改革法案が国会で可決されたことは、 日本人が仕事に抱いていた様々な思いを一度 リセットしてみようという機会だと考える。糧を得るために、時間を切り売りするのが「仕事」 という考え方がもはや主流なのかもしれない。「やりがい」や「生きがい」を前に押し出して「だ から薄給でも頑張れ」などとはもう言えない時 代である。「逃げるは恥だが役に立つ」というド ラマで、新垣結衣が演じる主人公が「それは、や りがい詐欺です」と言い放つシーンがあった。 是非はともかくとして、そういう時代なのだ。

人間、働きづくめだと確かに疲労する。ホワ イトカラーの人々にとっては、かつて大流行し たコマーシャルのキャッチコピー「24時間、戦 えますか」の状況が今も続く。「早く帰りましょう」と上司に言われても現実には仕事が残っているわけで、責任感のある真面目な人であれば あるほど、積み残した「仕事」を無視して帰宅することはできない。「休む」という行為の重要性 はわかっていても、そうはできない厳しさ。家 に仕事を持ち帰ろうとしても、セキュリティの重要性からそうもできない。家で仕事をするリ モートワークの重要性が叫ばれていても、現実 は厳しい。

それでも、人はやはり働く。それはお金を稼 ぎたいということもあるが、一方で自分自身が 社会に貢献したい、会社に対しても給料以上に 働いて存在意義を示したいという気持ちも強い。人間とは社会的な動物である。何もしないでそこにいることは、自分自身の心を追い詰める。仕事から受けるプレッシャーも厳しいが、 何もせずに休んでばかりの自分も受け入れが たいものである。

さてプロサッカー選手は、何を生業としてい るか。サッカー?なるほど。普通はそう答える が、それでは不正解だ。正確にいえば、サッカーを通じてサポーターに希望を贈ったり、楽しん でもらえる時間を提供することにある。ただ ボールを蹴り、ゴールを決めたとしても、それを見て喜んでもらえるサポーターがいなけれ ば、プロとしては何の価値もない。プレーを楽 しむのはアマチュアであり、プロはプレーを 「楽しんでもらう」という発想にならないとい けない。

ということから考えれば、練習だけではプロ とは言えない。もちろん、練習場までわざわざ 足を運んでくださるサポーターもいて、その人 たちに喜んでいただくことも大切だ。だが、基 本的に「練習」とは試合で素晴らしいプレーを見せるための準備にすぎない。レストランでい えばあくまで「仕込み」段階であって、その仕込 んだ料理をお客さんに喜んでいただいて初め て、シェフは仕事をしたことになる。練習場で 頑張る姿を見ていただくことも重要な意味が あるのだが、試合で戦う姿を見てもらって初め て、サッカー選手の仕事なのである。

だからこそ、試合に出られない状況はつらい。 来季の「糧」も不安定になるし、何よりも社会性 の部分でつらくなる。人はパンのみで生きるにあらず。給料のためだけに仕事をしているので はない。

2017年の稲垣祥は、客観的にみればつら いシーズンを過ごした。プレシーズンで認めら れ、開幕戦ではスターティングメンバーに名を 連ねた。しかし、清水戦で痛恨のPKを与えてしまい、札幌戦では失点につながるファウルを犯したあげく、オウンゴール。前半戦失速の「戦犯」であるかのように批判され、補強は失敗だったとまで言われた。そしてそのまま、彼は出場機会を失い、ベンチからも外されてしまう。 失敗を取り返すチャンスを奪われ、ただただ仕 込みを繰り返す時間を積み重ねた。仕込んだものを披露するチャンスがやってくるかどうか、 それもわからないままに。

「そういう時、完璧にフラットな感情だったのかというと、それはやっぱり違いますよね」

稲垣は正直である。普通は平静ではいられない。焦りも、妬みも、不信も。あらゆるネガティブな感情が渦巻いてもおかしくない。仕事を奪われたも同様だ。「Take it easy」、気楽にやれよなんて言っていられるわけがない。

だが、稲垣はずっと、稲垣祥のままだった。練習で全力を尽くし、闘志を前面に押し出した。 話を聞いてもいつもどおり、顔がクシャクシャ になる笑顔で、チームのこと、自分自身のこと を前向きに語った。プレシーズンでも開幕戦で も、そして試合に出られない時でも、彼はまっ たくスタンスが変わらない。

「試合に出られないからといって、自信をな くすことはなかった。練習からやれていると感 じていたし。きっかけがあれば、チャンスをつ かんでやっていける自信もあった。運がなかっ たと周りの人たちは言ってくれたけど、それも 含めて実力だから。幸運は引き寄せるもの」

「そのとおりだけど、なかなか我慢できない 状況だったと思うんだけどね。どうしてそんな に強い気持ちを持ち続けることができるの?」

稲垣は、笑った。

「そこはね、僕の良さでもあり悪さでもある かもしれないけど、元々のスタンスが違うんだ と思うんですよ。プロの世界に入って、サンフ レッチェ広島という素晴らしいクラブでプ レーできている。その事実に対しては、人より も感謝の気持ちを持っているつもりだし、自分にとっては特別なことだと思っているんです。 これだけの環境でサッカーができているのは、 幸せなことだなと本当に思っているんですよ。 だからたとえ、試合に出られない時があっても、 まあ仕方ないかなと(苦笑)。広島でプレーさせ てもらっていることそのものが、自分にとっては幸せなことだから。

そこは自分の甘さでもあり、緩いところ。で も僕は元々、下の方から這い上がってきたタイ プだから、他の選手とはプロサッカーに対する 見方とか捉え方、目線が違うのかもしれない。

だから、厳しい状況に陥っても、少し余裕が あったのかな。試合に出なくなっても、練習か らやり甲斐を感じてやれていた。むしろそういう時期を楽しんでいた。あのときは、自分が 思っている以上に周りが心配してくれていました。僕がギャップを感じてしまうくらい(笑)。 自分自身はコンディションもいいし、練習もや れているし、全然大丈夫だよって思っていても、 周りの人はすごく気にしてくれていた」

甲府時代は常に試合に出ていたといっても、 チームが変われば一からのスタート。その事実 を聡明な稲垣はしっかりと理解していた。

「競争は覚悟の上だったし、むしろそれを望 んでもいた。試合に出られなくなったとしても、 自分自身にとってショックではなく、普通のことだと捉えていた。それがいいことだったのか ダメなのか、僕にはわからない」

稲垣のようなボールハンターが、広島のよう に相手を待ち構えてボールを奪い、ポゼッショ ンで攻撃を構築するスタイルに合うのかどう か。稲垣自身、懐疑的ではあった。実際、オ ファーを受けた時も、足立修強化部長に「僕で いいんですか?広島に合いますかね」と質問し ている。チームにフィットしないといけないけ れど、それで自分の良さが生きないようでは、 試合には出られないからだ。

(続きは明日発売のSIFMACLUB7月号で是非、ご覧下さい)

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