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【THIS IS FOOTBALL】森島司、松本泰志、そして川辺駿。革命前夜。

昨日から今日にかけての大雨により甚大な被害が生じました。犠牲になられた皆さまにお悔やみを申し上げると共に、被害者の皆さまには心からお見舞いを申し上げます。

雨はまだ予断を許さない状況にありますし、災害そのものは現在進行形です。被害がこれ以上にならないことを心より祈念いたします。

 

2008年、J2史上最強のチームをつくりあげた広島は2012年・13年・15年と三度の優勝を果たした黄金時代を構築したことで、下剋上を果たした。だが、全ては諸行無常。栄光は長くは続かない。セリエAで7連覇を果たしたユベントスもやがて、優勝できなくなる。あれほど強かったドイツも今回のワールドカップでは完敗。イタリアやオランダは出場すらかなわない。クリスティアーノ・ロナウドやリオネル・メッシも落日の途上であることが明白になった。常勝などありえない。

2018年、前年の悲惨な戦いから広島は雄々しく立ち直り、15試合で37ポイントの荒稼ぎを見せた。だが、何かが大きく変わったというよりも、黄金メンバーたちがもう1度、死力を尽くして立ち直ったこと。城福浩監督のチームづくりや池田誠剛フィジカルコーチの指導などもあるが、選手たちがその指導を理解し戦術を実行する経験と能力なくして、この信じがたい戦績は残せない。

とはいえ、このままの状態で過去15試合と同じような戦績を残せるとは限らない。というよりも、今のままでは難しいだろう。ルヴァンカップの敗退、第15節での対C大阪戦での敗北、天皇杯での苦戦など、困難な状況に陥ることを予感させる事実が突き付けられた。間違いなく、厳しくなる。

守備の安定度を考えれば大崩れはしないだろう。J1残留の目安である勝ち点40まではあと1勝であり、当初の目標はクリアできる可能性は高いが、さらなる高みに到達しようと思えば、2012年の森崎浩司復活や清水航平・石川大徳の台頭、2015年のドウグラス・柴崎晃誠の覚醒や浅野拓磨の爆発など、シーズン当初の予想を超えるものがないと厳しい。

だからこそ、城福監督は「ボールをつなぐ」「支配率をあげる」ことに中断期のトレーニングではトライした。フロントはAリーグで2度にわたって得点王をあげた伝説的なストライカーであるベリーシャの獲得に成功した。だが、それだけでは本質的なところは変わらない。チームを大きく変えるには、若者の爆発的なパワーが絶対に必要だ。フランス代表の19歳、エムバペのような破壊力(スピードやパワーという意味ではなく存在そのもの)が絶対的な価値をもたらすのだ。

本来であれば浅野拓磨や野津田岳人がその役割を果たしてくれるのではと考えていた。しかし浅野はさらなる高みを目指そうと欧州へと舞台を移し、野津田は出場機会を求めて期限付き移籍を繰り返し、新潟・清水を経て仙台でその居場所を確保したばかり。いずれにしても、広島を支えてくれると信じた若者は今、広島にはいない。

今の時代では、クラブに忠誠を誓うよりも自身のステップアップを目指して戦う場所を変えていくことがスタンダードとなっている。クラブが選手の未来を保証することはできないし、Jリーグが世界最高峰でも広島が日本最高峰でもない以上、「高みを目指す」ことは当然だ。浅野や塩谷司らの決断はプロとしては当然だし、野津田や宮原和也らのように自らの成長を求めて移籍(期限付きを含む)することも悪くない。実際、川辺駿や吉野恭平らが戻ってきての成長は、外での時間が有効だったことを如実に証明した。

逆にクラブ側からすれば若者が活躍すると流出の危機に陥るというジレンマも抱えることになる。ビジネス面では移籍金を確保できるというメリットもあり、悪くはない。しかし手塩にかけた若者がようやくモノになった時にクラブを去るのは、心が締め付けられるものだ。だが、そういうリスクがあったとしても、チームに素晴らしい若者の台頭が必要だ。ベテランが大きく強い盾となったにしても、そこを乗り越える爆発的なパワーが生まれれば、それがすなわち優勝にむけてエンジンが加速させるギアチェンジにつながる。

広島は本来、常に若者の力を輝かせてきたクラブである。1990年代は下田崇、服部公太、久保竜彦。2000年代は森崎和幸、森崎浩司、駒野友一。ペトロヴィッチ監督就任後は青山敏弘、高萩洋次郎、柏木陽介、槙野智章。若者たちの絶大なパワーがチームを支え、そして護ってきた。

しかし、黄金時代の訪れと共に、広島のもう一つの側面である移籍選手たちの再生・育成・活躍の面がクローズアップされてきた。沢田謙太郎、伊藤哲也、山口敏弘、藤本主税、佐藤寿人、戸田和幸、西川周作、塩谷司、柴崎晃誠、柏好文、佐々木翔、稲垣祥。他にもたくさんの選手たちが広島の歴史を支えてきてくれた。ただ、若者たちの突き上げるような勢いと実力者たちの邂逅なくして、ハイブリッドな状況なくして、本当の強さは生まれない。

7月6日、激しい雨が包む吉田サッカー公園で行われた紅白戦。1本目、赤ビブスを身につけたいわゆる主力組を若者たちはほとんど自陣に押し込み、ボールをまわして揺さぶった。甘さがあるが故にカウンターを浴びたが、実績豊富な千葉和彦や丹羽大輝の助けを借りて凌ぎきり、見事なパスワークで失点数J1ダントツトップのチームを揺さぶり続けた。得点そのものはフェリペ・シウバのパスを受けた工藤壮人の美しいシュートではあったが、そこに至るまでの過程は、川辺駿・森島司・松本泰志の若者トリオが見せたスキルフルなプレーが存在した。

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