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【2018紫熊の戦士】佐々木翔/不屈の19番は人間対人間で誰とでも対峙する

19番は不屈の番号である。

固定番号制が導入された1997年、上村健一(現讃岐コーチ)が19番を選択したことについて、その理由を質問したことがある。

「いやあ、なんですかね。まあ、俺は中途半端な人間だから、中途半端な番号でいいんじゃないですか」

そう言って、彼は笑った。当時、左膝前十字靱帯断裂という大怪我からの復帰を目指し、リハビリのトレーニングに注力していた頃。辛い状況にあったはずなのに、彼はそう言って笑っていた。その後、上村は2度目の前十字靱帯断裂という大試練を味わいながら、それでも我慢に我慢を重ね、1998年には約2年ぶりの完全復帰を果たし、広島のJ1残留に貢献。2001年には日本代表に選出された。

ワールドカップ選出を目前に控えた2002年の宮崎キャンプで、今度は右膝の前十字靱帯を断裂。だが、それでも彼は諦めない。さすがに天性のスピードは失われ、身体能力は全盛の面影もなくなったが、そこを上村は積み重ねた経験を力に変えた。研ぎ澄まされたサッカーインテリジェンスで広島の守備を是正し、強烈なリーダーシップで下を向きがちな選手たちを牽引し、2003年のJ2戦線を勝ち抜く原動力となった。

彼が移籍した後、井川祐輔(現東方足球隊※香港リーグ)を経由してこの番号を引き継いだのは盛田剛平(現浦和レッズハートフルクラブコーチ)である。浦和・大宮とFWとして結果が出ず、2004年から移籍してきた広島でも同様。2005年のシーズンオフ、彼は一大決意を込めてDFへのコンバートを志願した。それが認められ、翌年からCBのトレーニングを開始し、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督に能力を認められてレギュラーに定着。その後、槙野智章や森脇良太の台頭によってポジションを失ったが、2011年まで貴重なバイプレーヤーとしてチームを支え続けた。甲府に移籍した後は城福浩監督によってFWに再コンバートされ、38歳にしてキャリアハイの5得点を記録し、チームのJ1残留に貢献する。

広島の背番号は1番・5番・6番・7番・8番・10番・11番と複数の名選手たちが歴史を刻んできたナンバーが存在する。その「伝統のナンバー」の中に、19番もリストアップされるべきだろう。上村と盛田だけでも凄い。そしてそこに、佐々木翔も入ってきたのだから。

2度の前十字靱帯断裂から日本代表へ。確かに、彼にはそういう事実が広島に存在したことを告げたことはある。その時、佐々木翔は決してその言葉に前向きではなかった。

「なるほどね」

そう言って、彼は笑った。おそらくは「そういう人もいるよね」程度のことだったはずである。しかし、現実として佐々木はやりとげた。しかも、上村は同じポジションでの復帰だったし、代表でもストッパーであることは変わらない。でも、佐々木は違う。チームではサイドパック、そして代表ではおそらくストッパーになる。フォーメーションも違うし、求められるプレーも違ってくるはずだ。複数のポジションを高いレベルでやりぬくことは決して簡単なことではない。佐々木翔がフットボーラーとしていかに能力が高いか、この事実だけでも証明できる。

筆者自身、本気で佐々木は代表にいけると確信していた。彼が甲府から広島に移籍してきた時の初めてのインタビューで、日本代表について質問したのは、間違いなくそういう素材だと確信していたからだ。だが、それは「すぐに」ということではなない。2015年当時、広島は千葉和彦・水本裕貴・塩谷司(現アル・アハリ)と日本代表経験者がズラリと並んでいた。その中でU-19日本代表に選出されただけのキャリアしかない選手が割って入れるとは、とても思えなかった。だが、その前年に彼が甲府対広島戦で見せたほぼパーフェクトなパフォーマンスを考えれば、間違いなくポテンシャルはある。そう信じていた。

実際、2015年アウェイG大阪戦で水本裕貴が眼窩底骨折を受傷して離脱した後の佐々木のパフォーマンスは、見事というしかない。パトリックを完全に封じ込め、苛立たせて退場に追いやった。チャンピオンシップ決勝第1戦での強烈なヘディングシュート。スピードで相手FWに置いていかれることもなく、180センチに満たない高さながらヘディングでもほぼ負けない。攻撃性も高く、足下の技術も優れている。実際、森保一監督(当時サンフレッチェ)も佐々木の能力を高く評価し、2016年シーズンには彼にレギュラーポジションを与えた。しかし、まさかそこから2度にわたって右膝前十字じん帯断裂という大怪我を負うとは、さすがに想像はできない。それでも、佐々木の復活を、復活してからの成長を、筆者は信じた。

それは佐々木翔という男の人間性を信じた、と言い替えてもいい。

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