【フットボール・ツーリズム】カシマの途中に富士宮市で温泉
当初は経費節減のためだった。ガソリン代と高速代を考えると、新幹線や飛行機で行くのよりも二人だったら半額になる。その現実から、僕らはどこにでもクルマで行くことに決めた。愛車・マツダCX−5の燃費の良さ、ディーゼルによる強さと軽油の安さがあってこそのことではあるが。
北は山形から南は鹿児島まで、僕らはクルマを走らせた。クルマで行っているからこそできるたくさんの体験が、そこにあった。それまでは広島→空港(駅)→ホテル→スタジアムという単調な「出張」だったのに、今ではまさに「旅」そのものになった。いわば、フットボール・ツーリズム。胸を張って、そう言えるようになった。
旅は、急いではならない。新幹線や飛行機はすぐに目的地に着いてしまうけれど、それではただの出張である。もちろん、仕事であれば出張で何が悪い、という話になるだろう。だけど、たった1〜2時間で数百キロの距離を飛んでしまうことで、その距離にあるたくさんの素晴らしく面白いことを、美しい出来事や風景を僕たちは捨ててしまっていた。人生とは、無駄だと思えることをどれだけ積み重ねるかで豊かさが変わってくる。絵や小説、映画やスポーツ。娯楽は全て、生きる上では「無駄」なことだ。だが、一見して無駄だと思えることが実はすごく大切な栄養素となって物事を豊かにする。人間や動物の排泄物が肥沃な土地をつくる肥料となって美味しい農作物をつくってくれるように。
さて、今回の鹿島行きである。さすがに900キロを超える距離を一気にクルマで行ききるのは難しい。となれば、どこかで中休みを置く必要がある。いつもならば愛知県刈谷市の刈谷ハイウェイオアシスで車中泊をするのだが(ここはスーパー銭湯が隣接されていて、非常に快適に過ごせる)、翌日のカシマ行きを考えると、もう少し先に行っておきたい。そしてもう1つ、自分たちの年齢(55歳オーバー)を考えると、肉体的にも精神的にも疲労が激しい。安いビジネスホテルでもいいからベッドかふとんで寝たいという気持ちがあった。車中泊は非常に便利なのだが、やはり肉体への負荷がどうしても大きい。そういう意味では、キャンピングカーが欲しいところではあるが、それも現実的にはなかなか難しいところだ。
今回、僕らが泊まった場所は、富士宮市にある「ホテル花の湯」だ。宿泊代は二人で1万3000円程度(朝食付き)と決して安くはない。新東名高速の新富士インターからクルマで20分とアクセス抜群というわけでもない。だが、それでもここを選んだのには、わけがある。
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