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森崎和幸物語/第13章「カップ戦準優勝」

人生は、らせん状に流れていく渦巻きのような形状をしていると考える時がある。巡り巡る流れの中で、出会いも別れも、そして幸運も不運も飲み込んでいく。それが目に見えない渦巻きの中でかみ砕かれていき、1つの流れを為していく。厳しい出来事のゴツゴツとした岩のようなエッジも、時間と共に滑らかになってくる。そして流れの中に溶け始めた岩が栄養素となり、人生を豊かにしていく。そう考えるか、そうではないのか。そこが、分水嶺だ。

カズは2010年まで、3度にわたって大きな病と闘った。それはいずれも、選手生命に大きく関わり、引退してもおかしくない状況。だが、カズはその度に立ち上がってきた。これはスポ根マンガではない。逆境にあえばあうほど「戦闘力」が増幅するドラゴンボールのサイヤ人でもない。普通の人間の生き様である。

2010年、カズはまたも病に打ち克って復帰を果たした。その直後に迎えたJリーグヤマザキナビスコカップ(現JリーグYBCルヴァンカップ)準決勝第2戦。カズは日本代表のため不在となった槙野智章の代わりに左ストッパーで先発を果たす。初戦で2−1と清水に勝利したもののアウェイゴールを許してしまった広島は、0−1で敗れれば敗退となる。なんとしても、失点は免れたい。だが、清水も決勝進出をかけてスクランブルで攻撃を仕掛ける。広島は前半だけで9本のシュートを浴び、決定機も何度も許した。だが逆にみれば、全員で身体を張っていたからこそ、失点0で凌いだとも言えた。31分、小野伸二(現札幌)のミドルがバーに当たり、こぼれを押し込もうとした大前元紀のシュートもポスト。さらに太田宏介のクロスにヨンセンが合わせたボールもバー。

幸運もあった。だが、それもまた、人生。幸運と不運は、常に交錯する。長い時間でみれば必ず。

後半、ペトロヴィッチ監督(当時)は疲れが見えていたストヤノフをベンチに下げてミキッチを投入。山岸智(現大分)と服部公太にこう告げる。

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