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森崎和幸物語/第19章「チャンピオンシップ」

鬼気迫る。

2015年の森崎和幸にピタリとはまる言葉である。

このシーズン、森保監督は引いて守るだけでなく、状況に応じて前からのプレスも仕掛けるという形も取り入れた。ただ、それはなかなか、後ろも含めての連動がうまくいかない。しかし、その綻びをカズが埋めまくった。さらに、一気にPA近くまでプレスをかけにいってボールを奪い、野津田岳人や浅野拓磨のゴールを演出。圧倒的な存在感で中盤を制圧した。このシーズン、途中まで青山敏弘は決していい状態とはいえなかったが、彼を支え、チームを支えていたのは、間違いなくカズだった。その事実はきっと伝わりづらい。予想どおり、ベストイレブンの候補にも入らなかったが、広島の試合を見た誰もが感じたはずである。カズの凄みを。

このシーズン、最も苦しんだのは8月12日の対鹿島戦、翌週の柏戦での連敗時だろう。特に鹿島戦では、カズがマークをしていた選手にセットプレーで決められてしまっての敗戦。責任を痛感していた。だが3連敗は絶対に許されないアウェイの新潟戦、柏戦で「全ては自分のミスから」と敗戦の全てを背負い込んでいた塩谷司と共に身体を張り、新潟の猛攻を弾き返し続けた。そして塩谷がまず、見事な攻撃参加から強烈なシュートを叩き込む。カズもまたレオ・シルバからボールを奪ってそのまま前線に走り、美しい切り返しから精密にゴールを陥れて勝利を確実なものとした。

この勝利以降、チームは大きく崩れることなく、年間1位を奪取。34試合制では最多となる勝点74を奪い、得点は平均2点超え、失点は平均1点を切るという完璧なシーズンを送った。だが、この年から施行され(そして2年後には打ち切られる)2ステージ制によるチャンピオンシップに勝たないと、真の王者として認められない。

正直、理不尽な話である。だが、逆の立場に立てば、「優勝のチャンスが広がった」と思うだろう。どういう戦いであっても、1つのルールや制度の中でやらないといけない。たとえば、ワールドカップだって、グループリーグでの運不運、勝ち上がりがPK戦で決まることも含め、理不尽なことが多い。それでも勝ち抜いたチームが、王者と呼ばれる。

全ては、初戦だった。勝ち上がってきたG大阪はリーグでは3位。失うものは何もない。広島対策として、これまでならパトリックを起用してきたところを、彼よりも繊細なプレーができる長澤駿を起用してきた。シーズン4試合2得点の若者抜擢という冒険ができるのも「挑戦者」ならでは。受けに立つ側は、なかなかできない。

「まったく緊張していなかった」

この大一番に向けて、カズはあまりにリラックスしている自分に驚いた。過去、たとえばワールドユースもそうだし、優勝争いや残留争いなど、胸が焼け付くような試合を何度も経験してきたカズにしても、こういう感覚は初めてだった。だが、リラックスとは、決して、いいことばかりではない。

力を抜くことはもちろん、大切。だが、力が抜けすぎると、勝負にとって大切な集中まで削いでしまうものだ。身体がフワリと感じて、腹の奥底の力が湧いてこず、足下も浮つく。カズほどのベテランが、そういう事態に陥った。原因はわからない。睡眠もよくとれていたし、いい準備ができていたはずなのに。

カズのミス。佐々木翔のパスを止めることなく、そらした。後ろに千葉和彦がいて、彼がボールをキープすると判断したからだ。だが、千葉の位置はカズよりもずっと後ろ。緩いボールはそのまま長澤がカットし、叩き込んだ。失点。ありえない。

動揺した。取り返そうともがいた。だが同点直後のセットプレーで今野のマークを外してしまい、またも失点。2015年、堂々たるプレーの数々を見せつけた重鎮=カズのミスから2失点。チームに動揺を与えないはずがない。

だが、ここでカズは立ち直ることができた。「若い頃ならきっと、できなかった。精神的に押し潰されたかもしれない」とカズは言う。確かに、20代の頃の彼であれば、そのまま消極的になってしまって沈没してしまったかもしれない。だが、カズは様々な苦しみを経験してきた。大舞台でミスができるものは、大舞台に立つことができたものだけだ。サッカーができない苦しみを何度も何度も味わってきたんだ。ミスは取り返せばいい。取り返せる。

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