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森崎和幸物語/第20章「2016年、終章に向かう」※無料記事

 強烈なシュートはない。誰もが意表をつかれるスルーパスも、それほど出すわけではない。美しいFKもない。

そんな森崎和幸の特質が、正当な評価を邪魔している。それはサッカー後進国の日本だから、というわけではおそらくあるまい。玄人好みと言われるが、カズのプレーはその玄人である選手・監督の中でも、よくわからない人も多いのだ。

だが、一緒にプレーした選手は、誰もが言う。

「あんなに上手い人は見たことがない」

止める。蹴る。プレーを選択する。

そんな基本的なサッカーの技術・戦術の部分で、弟・浩司と共に日本人最高峰に位置する。それが森崎和幸というフットボーラーである。その凄みに対する理解度は、あまりに低い。

広島の2016年は完璧な失速状態だ。それはもちろん、ピーター・ウタカの爆発が小休止した時、他のストライカーたちがカバーしきれていないことによる攻撃力の低下が大きな要素を占める。宮吉拓実や茶島雄介、アンデルソン・ロペスら若きシャドーたちは不安定であり、ケガもあった。皆川佑介も頑張っているが得点感覚が未だに研ぎ澄まされていない。

ただ、本質はそこにはない。

「コンディションがなかなか、あがりきってこない」

シーズン当初に負傷したこともあり、カズは自分自身のプレーについてこんな言葉を落としていた。そういう状態を森保一監督も敏感に感じたのだろう。ホームの対浦和戦で結果を残した丸谷拓也を重用し、カズは8月27日の対仙台戦以降、ベンチスタートを余儀なくされた。だがチームはここから、一気に転落する。カズがスタメンから外れた5試合は2勝3敗、5得点7失点。決して内容が全て悪いわけではないが、肝心なところでリスクマネジメントができず、リズムも変えられず、ビルドアップも不安定。緩急もつけられず、ボールを奪ってもすぐに奪われ、勝負どころの寄せも甘い。

千葉和彦のドーピング検査結果の影響で、突然、リベロとしてプレーした川崎F戦では、カズの持ち味であるリスク管理はほぼ完璧だったし、ビルドアップのミスもほとんどなかった。それでも敗れたのはやはり、FC東京戦と同様の精密なミドルシュートをきめられたこと。対応に我慢しきれず、広島の守備陣が自ら動いて自ら隙をつくってしまったが故の失点だ。もし、カズがボランチだったら。またしても、そう感じた。

丸谷の努力は素晴らしい。おそらく、カズを見ていなければ、彼のプレーに満足していただろう。技術レベルも高いし、強烈なミドルも持っている。敗戦も彼だけの責任ではない。

だが、全ては結果だ。セカンドステージ、複数得点が多いのは、やはり守備組織の構築に問題を抱えていたから。中盤にカズがいるのといないのとでは、安定感が違うのだ。カズがボランチにいた時の失点数は11試合で10失点、平均0.90。そうではない試合では21試合で29失点、平均1.38。明白な差がある。攻撃においても、カズがボランチでプレーしている試合は平均1.55得点。そうでない試合では1.33得点。データは明白である。

クラブとしてカズの後継者を創り上げないといけない。それは理解できる。だが、森崎和幸は不世出の天才。もし、彼に病気がなく、プレーの凄みを正確に理解できる指揮官が日本代表にいれば、間違いなくもっと高いステータスを得られたはずの存在だ。そんな選手の後継者が簡単に見つかるほどの才能ではない。

カズ自身も感じているように、年齢は残酷で、運動量とスピードを奪っていく。だが、その技術とスキル、戦術能力の高さはトップレベルを維持しているのは疑いない。森保一監督もだからこそ、悩ましいはずだ。名ボランチだった彼の目には、今のチームに何が問題なのか、それはわかっている。だが、監督という立場であれば、将来への投資も欠かせないのも現実である。

そんな苦境の中、弟・浩司が引退を決断した。特別な言葉はなくても、カズには引退する弟の決意はわかっていた。ここまでずっと、2人で一緒に戦い、支え合ってきた双生児。「引退する時も同じじゃないのか」と笑いあっていたが、負傷を連発して肉体的にボロボロになってしまった弟が、先にスパイクを脱ぐ。カズの感じる寂しさは、言葉にできない。

森崎和幸がいつまで現役を続けるのか。それは本人しかわからないだろう。ずっと活躍してほしいが、それは叶わないのもこの世界だ。ただ、願わくば、これからの彼のサッカー人生にもっともっと、スポットが当たってほしい。もっと正当に評価してほしい。そう願い続けて、この原稿を書いてきた。

「カズを評価できるかどうか。それは広島のサッカーがわかっているかどうかの判断基準だ」

かつて広島を担当した記者が言った言葉である。確かに、そのとおりだ。だが、そんなことで溜飲を下げるのはただの自己満足にすぎない。森崎和幸の存在がいかに重要であり、彼のプレーを見ることがいかにサッカーにおける知的な楽しさを得られるか。それが数多くのサポーターに共有できたとしたら、日本のサッカーはインテリジェンスの部分で欧州に近づき、代表はワールドカップで活躍できる。そうなってほしいと心から願う。

 

2016年の段階で、この「森崎和幸物語」は一旦、筆を置いた。だが2017年、まさかの事態が遭遇する。第21章から先、彼の苦しい状況と引退までの軌跡を記していきたい。

 

(続く)

 

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