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【ACL広州恒大戦】若手中心の広島、ではない(無料)

広州恒大戦も含め、サッカーの場合はどういう見方でも可能である。ポジティブならポジティブなりに、ネガティブならそれなりに考える。それが、サッカーの自由さである。

だが、少なくともメディアが表現する場合においては、やはりその見方に対する根拠は必要である。もちろん、データとのシンクロ性が決して高くはないサッカーにおいて、客観性を担保する根拠を示すのは、決して簡単なことではない。しかし、それでもその根拠を見つけ出す努力を惜しんではならない。

今回の広州恒大戦、多くのメディアが論調として「若手中心の広島」という言葉を使いながら書いていた。

では、「若手」とは何なのか。

どういう存在を「若手」というのだろうか。

たとえば堂安律はまだ、20歳。若いといえば若い。しかし彼が今の状況でG大阪に戻ってきたとして、「若手」と彼を言うのだろうか。彼と同年代の冨安健洋が福岡に戻ってきたらどうだろうか。

若手とは言うまい。それが常識である。

つまり「若手」という言葉を指す時、それは「経験が足りない」という意味合いで使う場合が多い。年齢ではない。では、果たして本当に広州恒大戦での広島のメンバーは「若手」なのか。

GK/中林洋次(15年目、岡山では絶対のレギュラー、J1でも2009年は広島で1年間、出場している)

DF/荒木隼人(ルーキー)、井林章(7年目、J1は初めてだが昨年まで東京Vの主力)、清水航平(12年目、昨年までJ1で137試合出場、ACLでも12試合に出ていて得点もあげている)

MF/東俊希(ルーキーだが、今季は全公式戦で出場、昨年にリーグ戦デビュー)、松本大弥(ルーキーだがここまで全公式戦に出場)、和田拓也(11年目、昨年は広島で33試合出場2得点、J1で112試合、J2でも108試合出場)、森島司(4年目、J1では15試合出場。東京五輪代表候補)、渡大生(8年目、J1では17試合1得点、J2では213試合出場59得点、2017年は徳島で23得点)、ドウグラス・ヴィエイラ(プロ入りは不明だが、東京Vでの4年間で108試合37得点の実績)

FW/皆川佑介(6年目、昨年は熊本で41試合11得点、広島でも60試合5得点。日本代表経験者)

試合直前に体調を崩さなければ、水本裕貴が加わっていたわけで、彼の素晴らしい実績は改めて語るまでもあるまい。そういう彼らが「若手」なのだろうか。

確かに3人のルーキーは起用しているが、公式戦初出場の選手は一人もいない。プレシーズンの出来からしても、彼らがリーグ戦メンバーに入っていても決しておかしくはないのだ。

日本代表の青山敏弘や佐々木翔、あるいは林卓人やパトリックのような選手が帯同していないことは事実。しかし、青山と林はケガで試合に出られないし、パトリックは古傷もあって慎重に起用しないといけないことは、検索すればわかる。また佐々木についても、2年もの離脱から昨年復帰して、代表も含めてかなりの酷使しているので、彼のコンディションもしっかりと見てやらないといけない。それも、想像できることだ。

では、他に誰が出ていれば満足か。

柴崎晃誠、川辺駿、柏好文、エミル・サロモンソン、野上結貴、大迫敬介。このあたりが、帯同していないメンバーだ。彼らを起用するべきだというのか。しかし、鹿島アントラーズはホームなのに、内田篤人や土居聖真、レオ・シルバや安部裕葵、伊藤翔も使っていない。川崎Fはほぼベストメンバーだが、レアンドロ・ダミアンは外している。浦和にしても主力の何人かは休ませているのだ。ミッドウイークに試合がある時、選手の入れ替えは通常のこと。ただ広島の場合、他チームと違って今季は全てのポジションで激しい競争が行われていて、確固たるレギュラーを規定してチームを構成していない。チームづくりの過程として2019年は過渡期にあり、戦い方も昨年とは変えて、未来への方向性も強く打ち出している。ACLのプライオリティどうこうではない。たとえばリーグ開幕戦のメンバーがもしACLのピッチに立ち、リーグでACLのメンバーがプレーした時、「JよりもACLのプライオリティが高い」と評価されるだろうか。

そうではあるまい。きっと同じようなことを指摘されるだろう。つまり、こういう記事を書いている人も、ベースに「J>ACL」という優先順位にならざるをえないことは、わかっているのだ。川崎Fのようにほぼ同じメンツを使わないかぎりは。

かつてヨーロッパでも「国内リーグ>欧州カップ戦」という優先順位だったと聞く。だが、チャンピオンズリーグの発展が、その優先順位を変えた。財政規模が巨大化し、チャンピオンズリーグに出場することがクラブの栄誉と財政に貢献するようになって、今の姿がある。出場するだけで約20億円の賞金が手にできる。その他、UEFA係数給やマーケットプール(テレビ放映権料)などを合わせると、約30億〜40億が出るだけでクラブに入ってくるわけだ。さらにグループリーグで1勝するごとに約3億5000万円。引き分けでも約1億2000万円。こんな条件を提示されて、プロとしてプライオリティをあげないはずもない。

では、ACLはどうなのか。

「決勝進出するまで赤字」といわれるこの大会で鹿島は優勝したが、賞金総額は約5億円強と言われている。昨年、J1で優勝を果たした川崎Fは、優勝賞金3億円、均等配分金3億5000万円、理念強化配分金は10億円(3年で15.5億円)である。理念強化配分金はシステムがいろいろとややこしいが、いずれにしても川崎Fは16.5億円を手にすることができるわけだ。プロとして、どちらが優先されるべきだろうか。

もちろん、サッカーの側面からみれば、ACLは魅力的である。先日の広州恒大戦も様々な意味で実に楽しかった。優勝すればクラブワールドカップという道筋もいい。だが、だからといって、どの大会を重視するべきかはクラブが考えるべきこと。ACLに参加した年、昨年でいえば柏、その前にはG大阪が降格している一方、いわゆる『ダブル』はかつてない。Jリーグという過酷な戦いの中で、そちらを優先せざるをえないのは、特に経営という論点からいえば、しごく真っ当なのである。川崎Fがリーグと同じプライオリティをACLに認めているのは、それがクラブとしての考え方ということで、間違いではない。ただ、それと同じことを、全てのクラブに求めるのが正しいスタンスかどうか。

そういうことを理解した上で、それでも自分自身の主張を行うのなら、それはそれでいい。だが、少なくともメディアであれば、しっかりと根拠を示さねばならない。

 

(了)

 

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