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【2019紫熊の戦士】野津田岳人/キッカーの覚醒

PAの直前、ペナルティーアークと呼ばれる半円のゾーンの中がFKのポイントだった。普通のキッカーであれば、ちょっと近すぎる。

かつてイリアン・ストヤノフはこのあたりからのFKを得意としていたが、それはコントロールショットを得意としていたから。相手との駆け引きでGKの動きを誘い、タイミングを外してフワッとしたボールをネットに送りこむ。ただそれは、誰にでもできることではなく、ストヤノフの技術と経験があればこそできた業である。例えば中村俊輔(磐田)や太田宏介(FC東京)のような名手であったとしても、PAエリアすぐそばからのキックは難しい。曲げて落とすボールを狙うのだが、落とす角度が急角度でなければならず、高速回転のボールが必要になるが、どうしてもコントロールが難しくなるからだ。多くの場合が回転不足で落ちきれない。

高校時代の野津田岳人は、直接FKを狙う選手ではなかった。一つ上に森保圭悟という名手がいたこともその要因だろう。筆者の個人的な感覚でいえば、広島ユース史上最高のプレースキッカーは森崎浩司ではあるが、森保一現日本代表監督の次男・圭悟は浩司に勝るとも劣らない。少なくとも右足のキッカーとしては駒野友一(FC今治)と並び史上最高である。

その圭悟がいる関係もあって、野津田はほとんど試合で直接FKを狙うことはなかった。本格的に練習を始めたのはプロになってからだと言っていい。森崎浩司からの助言を受け、キャンプでも吉田サッカー公園でも左足を振り続けた。しかし、広島では結局、FKゴールを決めたことはない。2015年、ホームでの徳島戦では直接FKから少しボールを動かしてのミドルシュートを決めたことがあるが、記録上は直接FKのゴールではない。仙台でも、彼は直接FKのキッカーとしてボールを蹴っていたが、ゴールはないはずだ。

彼の左足の破壊力は類いまれな破壊力を持つ。だがこれまでの彼は、そのキック力をどうコントロールしていくか、そひのスキルについては未成熟なままだった。どういう場合でも思いきり左足を振り抜き、力任せにボールを打ち抜く。そんなフォームから繰り出されるボールは時に強烈な弾道でゴールマウスを襲い、時に大きく枠を外れる。おそらくは自身でもコントロールできず、モンスターな左足を持て余しているようにすら、見えた。

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