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【THIS IS FOOTBALL】川辺駿の時代が、もうそこに。

ジュニアユース時代の川辺駿は、まさに「自分のチーム」を形成していた。アンカーの位置で周りを動かし、走れる浜下瑛(栃木)とドリブルの切れる宮原和也(名古屋)、2人のインサイドハーフを自在に使いながら思いどおりの攻撃を構築していた印象が強い。

ユース時代は、彼が「キング」という印象はない。2年生までは野津田岳人という巨大な存在のもとで自由を謳歌していたイメージで、3年生の時はもうトップチームでトレーニングしており、ユースの選手という印象は薄い。プロになっても「若手」というカテゴリーの中で、川辺のサッカーをやりきるという感覚よりも、チームの一つのコマとして動いていた。それは磐田でも広島でも同じである。

主役を演じてほしい。

復帰してからずっと、川辺にはそう期待していた。24歳以下の若者が形成してくれるはずの「俺達の時代」の中心になってほしい。そのためには、柏好文や柴崎晃誠という2015年以降の「主役たち」がいる今のチームで、主役を堂々と張る。それができれば、日本代表はすぐそこにある。そして、川辺駿というタレントなら、それができる。もちろん、今も信じている。

今の日本サッカー界は、若者たちに「主役」となることを求めない。一つのチームを掌握できていない選手であっても、一つの突出した能力だけにフォーカスして、「欧州へ」「海外へ」と騒ぎ立て、そして実際に行ってしまう。しかし、日本で主役を張れなかった選手が、サポートを必要としていた選手が、欧州で輝けるか。ゼロとは言わない。たとえば堂安律はG大阪では決して主役ではなかったが、オランダで結果を残して日本代表でも主役級に成長した。しかし、他にそういう例はほとんどない。

主役を演じるということは、責任を負うということだ。自分自身に対してだけでなく、チームの勝敗に対しても。例えば柏好文は常に、自分よりもチームを優先させている。チームだけに止まらず「クラブ」という発想を彼は持てている。自身がそうあり続けるために、まず自分自身に対する研鑽を怠らない。「中心」としてクラブを背負う自覚が、プロとしての成長をさらに促す。

サッカーはチームスポーツであり、個人はチームに自分を委ねて生きている。しかし、そこで自分がチームを支えるのか、チームに支えてもらえるのか、その意識によって成長は大きく変わってくる。責任感は自覚を促し、研鑽への取り組みをハイレベルに持ちあげる。「自分」しか意識がない選手は、まわりと自分がどう関わって全体のレベルを向上させるのかという働きかけに乏しい。自分が厳しい状況でも、チームのために何ができるかを考えられない選手になってしまい、移籍して自分の個性を知らない人たちの中で埋没してしまいがちになる。

天才だと認められた少年・少女を飛び級で進級させ、高いレベルの教育を受けさせることで成長させる。それは学問の世界でもよくある話ではあるのだが、今はその方向性が決して正しいことではないのではないかという議論もある。大きな問題は周りとの関係性の構築だ。天才とは才能の突出が周りに理解させることを容易にできる人のことであり、しかしそれはその時点での「才能」であって、周りよりも困難なことを簡単にやりとげる少年が、果たして順調に成長できるかどうかは何の保証もない。だからこそ、周りとの関係性をどう構築するか、そこを体験させる必要もあるわけだ。

サッカー界で大きな活躍を見せてくれている選手の多くは、天才型ではない。本田圭佑も岡崎慎司も川島永嗣も吉田麻也も、みんな努力型だ。何よりも日本サッカーの開拓者といってもいい三浦知良がそうだ。香川真司や中田英寿らは天才型かもしれないが、彼らはコレクティブな選手であり、周りとの関係性を構築しようと努力できる。それは彼らがセレッソや平塚で堂々たる中心選手であり、主役を張っていたからこそ、できることでもある。

川辺はまぎれもない才能だ。だが、過去の彼の発言を聞いていると、「自分が」という主語が多かった。「チーム」というよりも「個人」にフォーカスをあてていたような感覚がある。チームが苦しい時、難しくなった時、自分から率先して発言するのは例えば林卓人だったり、柏好文だったりするわけだ。しかし、チームということに意識がしっかりとある選手は、年上だろうが年下だろうが関係ない。言えばいいし、求めればいい。かつて藤本主税は森崎和幸に対して「もっと声を出せ。お前が言えば、周りは聞くんだから」と言ったことがある。あの言葉が川辺を見る度にリフレインしていた。その言葉どおり、森崎和幸は大きく周りに関わるようになり、苦しい時に誰もが彼を見るように存在に成長したからこそ、言葉が頭の中を駆け巡る。

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