SIGMACLUBweb

【紫熊戦士】林卓人/男は決して言い訳しない

僕は以前、居酒屋で働いていた。最初はホールで、そして自分の希望で、焼き場へ。つまり、焼烏を焼く人になったわけだ。

居酒屋というのは、暇な時は暇なのだが、忙しい時は目が回る程に。もっともずっと暇な店は潰れるしかないのだが。とにかく、多忙だったのは間違いない。ただ、どんなに忙しくても、一度にできる仕事量など、たかが知れている。どんなに一生懸命にやっていても、できる量は決まっているわけだ。ところが、カウンターのお客さんは容赦ない。

「おにいさん、こっち、まだ?」

「すいません、今、やっていますから」

「さっきも、そう言ったよね」

「…………」

わかっている。やっているって言っても、本当はやっていないんだから。忘れているわけじゃない。手がつけられない程、仕事が多いだけの話。気になっている。でも、できないものはできないのだ。無理なものは無理なのである。言い訳?その通り。でも、しかたないじゃないか。それが自分の実力だし、他の人がやったって、そんなに大差ないはずだ。

当時のことを考えると、プロ意識の欠片もなかったことが恥ずかしい。でも、そこでまた、言い訳を考える。若かった故のあやまち。仕方ない、と。

林卓人は、僕が居酒屋で働き始めた21才の時よりもさらに3才若い時から、言い訳など一切、口にしなかった。若いとか、無名とか、一切口にしない。実力がないことを自認するのであれば、実力をつけるために、トレーニングする。他の誰よりも長く、誰よりも濃く、サッカーと向き合う時間をつくる。彼はプロに入ってきたその時から、その姿勢に徹底していた。

(残り 721文字/全文: 1380文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ