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【2019決算マッチレビュー】嵐のような批判/対広州恒大戦(ACL第1節)

後半から入った野津田岳人がリズムを変えたことは確か。だからこそ、ゴールが欲しかった。

 

人間も組織も、そう簡単に変わることはできない。

2017年後半、広島は一度、ミハイロ・ペトロヴィッチから続いた「ボールを握るサッカー」を捨てた。夏に就任したヤン・ヨンソン監督はボール保持にこだわることなく、残留のためにシンプルな戦術を用いた。ボール支配率で上回ったのは、16試合中6試合。それまでの森保一監督時代では18試合中11試合、ボール保持率で上回り、時には60%を超える支配率を記録していた。ヨンソン時代にコンセプトが変わったことは明白である。2018年、ヨンソン監督が指揮した清水もボール支配率は44.1%でリーグ最下位。ハイプレスを仕掛け、守備から攻撃への切り替えを速くして速攻を狙っていた。彼が好むスピードを持つ前線の選手が揃っていたこともあり、昨年の清水はリーグ2位の得点数を示していたが、それも「堅守速攻」のヨンソンサッカーが見事にはまったからだ。

その「堅守速攻」は、2018年の城福浩監督も使ったタクティクスである。そして1990年代後半の広島は、まさにこのコンセプトの権化。5バックでしっかりと守り、久保竜彦を中心としたカウンターと高さを利したセットプレーに攻撃を頼ったエディ・トムソン時代だ。広島の伝統が「ボールを握るサッカー」だと強弁するつもりはさらさらなく、2006年後半から2017年前半にかけての10年間が「特異」だったと言われても仕方はない。

2019年、城福浩監督は「ボールをつなぐ」ことを主眼としてトレーニングを行ってきた。本来、ボールを動かすサッカーをやりたいのが、指揮官の本音。また、このチームには、繋ぐサッカーで生きる人材も多かった。

しかし、前年に表現した徹底した「堅守速攻」の方向性を変えることは、そう簡単にはできない。特にシーズンの立ち上がりでは、昨年までの主力である青山敏弘・稲垣祥・林卓人が不在。攻撃陣もパトリックのコンディションが途上であることは第2節、対磐田戦で彼を先発で使った時に証明された。松本泰志と川辺駿のダブルボランチ、リベロに吉野恭平を置いた布陣はボールを握るためではあるが、勝点を重ねるためにどうしても「守備」に意識が傾いてしまい、チームとして安全な株を買ってしまう。リーグ開幕の清水戦は50.6%のボール支配率だったが、パス成功率は78.0%と80%を切ってしまうレベル。第2節の磐田戦では支配率43.5%と数字を落とし、パス成功率も71.7%という水準にら落ちてしまった。清水戦ではエミル・サロモンソンのスーパーシュートに、磐田戦では大迫敬介のビッグセーブに救われて勝点1ずつを積み上げたが、「前途多難」という言葉を使わざるをえない内容でもあった。

3月5日、磐田戦から中3日というタイミングで広島はACLの初戦を迎える。相手は広州恒大。以前よりも破壊力は落ちたとはいえ、まだまだアジア屈指のレベルを誇る中国の雄だ。ブラジル代表やバルセロナでも活躍した世界的ボランチ=パウリーニョをはじめ、U-23ブラジル代表の経験を持つタリスカやガオ林などの破壊力はまさに脅威。簡単に勝てる相手ではなく、まして初戦は彼らのホーム。「大量失点だけは避けたい」。戦う前から弱気にさせられてしまうほどのチームだ。

試合前日トレーニング、公開された時間でメンバーを確認する。広島をずっと見ていた人であれば、特別な驚きはなかった。後に先発予定だった水本裕貴が体調不良で試合直前にベンチ入りもキャンセルせざるをえなかったのは想定外。しかしリーグ戦組でメンバー入りしたのが吉野恭平・野津田岳人・松本泰志という若者3人だけだったことは予想通り。サッカーのシーズンとは、ACLという「点」で考えることは無理。リーグ戦を含めた「線」、チーム構成という「面」で考えないと、とてもではないが乗り切れない。いわゆるターンオーバーは当然だと考えた。

ところが、前日の会見で中国のジャーナリストは「どうしてリーグ戦メンバーと違うのか」「外国人選手を1人しか(ドウグラス・ヴィエイラ)帯同させていないのはなぜだ」と質問を繰り返した。指揮官は「コンディションを優先させた。まだチームはつくりあげている段階。心身共に整っている選手を起用することで、フレッシュな戦いをやってくれると信じている」と語った。だが、取材陣はまったく納得していなかった。

試合は0-2で広州恒大が勝利。その後、嵐のような批判が広島を襲った。

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