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【THIS IS FOOTBALL】サイドからの攻撃をどう考えるか

サッカーの攻撃において「サイド」の重要性は言うまでもない。だが、この「言うまでもない」ことを「どうして、そうなんだろう」と説明することは、なかなか骨が折れる作業ではある。「1+1=2が正しいことを証明せよ」という数学的な課題がとても困難であることと、それは似ているのかもしれない。

もっともゴールに近いのは当然のことながら、中央だ。サイドにボールを振ると、ゴールから遠ざかる。シュートの角度がなくなり、GKもコースを読みやすい。しかし、それでも多くの指導者は「サイド」にボールを集めたがる。中央はDFも守備を固めていて、人数も多く、スペースもないからだ。また、真ん中からの攻撃はDFにとってアタッカーとボールを同じ視野に置きやすく対応もしやすいが、横からの攻撃になるとボールとストライカーを同時に視界に入れることは難しく、どうしてもボールウオッチャーになりがちである。

論理的にはそうなのだが、現実をみるとクロスからのゴールは、そこまで多くはない。例えば昨年、最多得点チームである横浜FMのクロスからのゴールは13点で、リーグ3位。しかし横浜FM全体のゴールパターンを見ると、ショートパスからのゴールが15点。セットプレーからも12得点が生まれている(ただしPKが9点)。クロスからの得点ではリーグ最多の15点を記録した川崎Fにしても、ショートパスから13点を叩きだしている。得点を多くとっているチームはさすがにサイドからの得点は多いが、一辺倒でもない。

サイドのポケットをとることを攻撃の軸に据えた広島にしても、クロスからは10得点。ショートパスからは11点が生まれていて、決して横からの攻めからばかりで得点をとったわけではない。サイドからの得点比率は22.2%。最もサイドからの得点比率が高い大分も、31.4%だ。一方で横浜FMは19.1%で川崎Fが26.3%という実態を考えれば、サイドからの攻撃にことさらこだわることもないのか、と疑いたくなる。

2015年、広島が唯一、平均得点2点台を記録した爆発的な1年を見ても、クロスからは15得点。一方、ショートバスからは20得点を叩きだしていて、ミキッチと柏好文という屈指のサイドアタッカーを擁しながらもこの数字である。ただ、僕たちはどうしても、こういう「データ」に身を置いて思考しがちだが、本来であればもっと細かな分析のための、細かなデータが欲しいところだ。「ショートパス」のゴールではあるが、起点はどのゾーンなのか。横からのボールはなかったのか。クロスが入ったことでショートパスがつながりやすくなったのではないか。2015年の得点は、印象的にはミキッチや柏の突破からスタートし、そこから崩すという感覚である。

このあたりの細かなデータについては、いずれ検証したいが、少なくとも今季の広島が「サイドのポケットをとる」ことをベースに戦いを構築するのは、間違いのない方向性だ。開幕戦のようなカウンターがはまるのはそれほど多くはない。今季は降格がなくなったことで、多くのチームがアグレッシブなサッカーを目指す傾向になるのは想像に難くはないが、それでも広島がボール保持を高めたならば相手は守備を固めるのは道理。少なくとも中央のスペースはほとんどない。相手DFにプレッシャーをかけてボールを奪い速攻をしかけるのは確かに有効ではあるが、では相手がボールをこちらに渡した時はどう攻撃するのか。繰り返すが、中央にはスペースはない。メッシのように中央でのドリブルで打開できる能力を持つ選手がいるのであればともかく、そうではないチームにとってはやはり頼りの綱はサイドだ。

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