【2020SIGMAの戦士】松本泰志/森島司の物語を追いかけるか
シュート、シュート、シュート。
松本泰志は、シュートを打ちまくった。シュートのイメージは、それほどないタレントである。試合でもこれまで決定的なシーンを迎えていたのに、彼は決めることができていない。プロ4年目で公式戦でのゴールはACL・対メルボルンビクトリー戦でのヘディングゴールのみだ。
彼がルーキーの時、2017年のことだ。G大阪とのトレーニングマッチで放った、美しいミドルシュートが筆者には忘れられない。あの試合、ヤン・ヨンソン監督(当時)は初めて、アンデルソン・ロペスの1トップを試して残留への手応えを得た闘いである。
「ゴールはファーに振り抜く感じで蹴りました。入ってよかったです。(遠征には参加していない)カズさんに見てもらいたかったですね。ボールもしっかり持てたし、少しミスしましたが、前向きにプレーできてよかったです」
当時の彼のコメントである。
そもそも、彼の高校時代のポジションは、攻撃的なミッドフィールダーだ。得点に絡むことを仕事とする位置でプレーしていた。だが1年目の春、宮崎キャンプでボランチに下がった。それはまるで、ボランチからトップ下に入った森島司とのトレードのごとく。プロの場で本来のポジションでプレーする機会は、ほとんどなかった。しかし、タイシはそのことに対して、ほとんど不満をもらしたことはない。むしろ、ボランチでプレーすることの喜びを精一杯に表現していた。おそらく、彼の性格にもあっていたのだろう。
タイシがあこがれていたのが森﨑和幸だったのは、よく知られていることである。カズのスペシャリティーであるゲームコントロール。自分の掌の上で90分の試合を動かすことへの憧憬は、サッカー選手であれば誰もが持っていることだ。ただ、その意志と能力のバランスがとれているタレントは数少ない。技術だけでなく戦術眼も重要であり、それを周りに認めさせる圧倒的な存在感も必要である。だから通常、ゲームのコントローラーはベテランになりがちだが、カズは高校生からそういう存在となっていた。それほど、技術と戦術眼が圧倒的だったのだ。
タイシは、カズの正当な後継者であると、今も思う。しかし、カズほどの存在になるには、経験の積み重ねが必要だ。森﨑和幸がデビューしていた時は、ゲームのコントローラーがチームに不在だった時期であり、求められていたということもある。だが、カズのもとで暴れていた時代を経て、試合をコントロールする術を身に着けた青山敏弘が、今はピッチに君臨している。その側に、8番を背負った川辺駿が、試合を管理する力を身に付けている。カズが台頭していた時と今とでは、状況が違う。広島でボランチとして台頭するのは、決して簡単ではない。ゲームをコントロールする存在になるのは、森﨑和幸という偉大な存在を追いかける青山敏弘と川辺駿がいる状況の中で、簡単に成し遂げられることではない。
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