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【SIGMACLUB立ち読み版】柏好文ロングインタビュー/サポーターと共に、 サッカーの喜びを 味わえる日々を。

休止期間中ですら、前を向いて過ごしていく

 

こんなに悲観的な言葉ばかりが、情報として大切なのだろうか。

新型コロナウイルスの感染拡大が日本中に恐怖を与え、緊急事態宣言が日本全国に発令された頃、筆者はずっと、そのことばかりを考えていた。

確かに、事実を客観的に報じることが、メディアの役割である。しかし事実とは常に多面的だ。未知の感染症の存在が明らかになった中で、情報は常に玉石混交。本当の真実を求める人々をあざ笑うかのように、いくつかの事実と多くのデマが流布されていく。

20世紀後半、少年マガジンに連載された漫画「デビルマン」は、デーモンと呼ばれる知的生物と人間との悲惨な闘いがテーマだが、その中で世界的な科学者が完全に間違った情報を流布し、それを誰もが信じたことで人間社会は悲惨の一途を辿っていくストーリーがある。今、この漫画を読んで、メディアリテラシーの大切さを思い知る。

今回も、冷静に情報を見ることができれば現状を明確に把握できたし、為すべき振る舞いも理解できた。悲観ばかりではなく希望も明白になっていた。様々な角度で情報を見れば、世の中に流布する悲観的な言葉の全てが真実とは限らないこともわかる。何十万人も死ぬという社会に日本がなるという恐怖から脱却することができることも理解できる。

それでも、心の中に巣くうモヤモヤはぬぐえない。何が正しくて、何が間違いなのかもわからない中で、迷い、惑い、不安は増幅する。

だからこそ、僕は柏好文と話がしたいと考えた。柏好文の言葉を届けたいと思った。

彼は休止期間中、自身がつくった料理の画像をクラブのSNSを通じてサポーターに届けた。同様の映像を林卓人も届けていたが、二人の料理は誰もが驚くほどの出来映えで、多くのサポーターが感嘆した。

なぜ、この状況でサッカー選手が料理画像なんだ。

そう感じた人もいるのかもしれない。しかし、緊急事態宣言の最中で外に出られない状況が続く中、サッカーで希望を贈れない中であっても、何かを表現したい。そんな思いが、柏や林の料理画像には込められていた。プロサッカー選手から「サッカー」を取り上げたとしても「プロ」としてできることをやる。そんな決然とした覚悟が、画像に見えた。

さすが、と言っていい。だからこそ、柏好文の言葉を聞きたくなった。ネガティブではなく、つくられたポジティブでもなく、彼自身の想いから生まれる希望を、感じたかった。2015年のチャンピオンシップ、「全てのボールを俺につけろ」と言い切った力を。2017年、J1残留の危機に立った時も常に前を向いていた力強さを、今こそ受けとめたかった。

とにかく、背番号18の言葉に耳を傾けよう。まず、料理のことだ。

 

 料理ですか?ああ、あれはサポーターと会って会話ができない状況でしたから。メディアを通しての露出も難しい状況の中で、自分が何かできないかって考えたんです。その一つの方法としての、料理だったんです。

 普段のシーズン中だと料理の画像はなかなか届けられない。選手がやっているサッカー以外の一面を、こういう時だからこそ楽しんでもらえたらいいなと思って、僕自身は料理をやって、それを届けた。他の選手は違うやり方で、サポーターのためにやっていたと思うんです。それぞれがそれぞれの考え方で、クラブのために、サポーターのために何ができるのか。この活動休止期間は、そういうことを考えながら各選手がやれていた期間だった。そういうことは、これからもできる限り、やっていきたい。料理ももっともっとやっていきたいと思うようになったし、個人としてもいい時間になりました。

 僕自身、大学の時から料理をしていたので、(料理をつくるのは)好きなんですよ。僕は性格的に、家でも常にジッとしていないタイプ。何かしていないと落ち着かないんです。始終ですよ、もう。ちょっと家の外に出てみたり、庭で何もするということなく徘徊したり。自分のできることを常に探しているというか、ね。家でもやれることは、探せばいくらでもある。やることがないのが、1番辛いので。

 休止期間は長かったけれど、それは「オフ」という意味ではない。いつ再開が決定されるか、わからない。オフであれば、身体をあまり動かさないのが通常なんですが、今はシーズン中という認識なので、常に準備を怠らないようにしていました。トレーニングの強度についても、できる範囲でできるだけ落とさないように、やってきたつもりです。サッカーのある生活を常に計算に入れながらやってきたから、生活リズムが崩れることもなかった。朝6時に起きて、9時からトレーニングをスタートする、いつもと同じリズムを継続してきた。だからこそ、身体を追い込むこともできたと思います。自分の中では相当に走り込みもやっていました。今、こうして全体練習が再開し、ハードな練習を重ねていますが、筋肉痛などはさほどない。年齢を重ねていく中で、トレーニングをやらなかったら、落ちていくのも早い。だからこそスイッチを切らさず、毎日やれたと思いますね。

 それでも家に居る時間が長かったので、料理をやってきた感じです。昼から夕食の仕込みをやり始めた日もありました。1週間分の食材を買って、1週間の献立を考えながら、料理にも取り組んでいたんです。

 子どもと一緒にいる時間が長かったし、毎日僕がいることも子どもは喜んでくれていました。そういう意味でも楽しい1ヶ月間でしたね。状況が状況だっただけに、楽しんでいいのかなと思う部分もありましたけど(苦笑)。シーズン中は、なかなか家族と長くいれる時間はない。シーズンが始まると、どんどんどんどん試合が入ってくるので、なおさら家族といる時間はなくなる。だからこそ、これだけ長く時間を共にできたことに対して、家族も喜んでくれました。こういう時間がとれることも、ほとんどなかったので。

 

サッカー選手だけでなく、誰もが相当にストレスを抱えていた緊急事態宣言であり、活動休止期間だった。しかし、そういう時間も彼は前向きに捉える。無理に、ではなく、楽しい時間にしてしまっている。サッカーという仕事を取り上げられ、外でのトレーニングもほぼ無理。ただ家の中で、本当にくるのかどうかもわからない再開の日を待つという受動的な日々は、サッカー選手にとっては苦痛以外の何ものでもなかったはずである。

彼は、こんなことも言っていた。

 

 確かにここ2ヶ月くらいは先行きが不透明で、日本そして世界の状況をみても大変なことになっている。だからまずはみんなの健康、身体のことが1番、大事だと思います。

 ただ、サポーターのみなさんの方がもっともっと厳しい状況で生活していると僕は思っている。コロナのために仕事もできない方もいるわけですよ。そういう社会情勢の中、僕たちも家の中でできることをやり、極力人と会わずにできることをやってきた。サポーターや応援してくれる人たちに、自分たちが何をしているのかをSNSを通じて知らせるだけで、なかなか触れ合うこともできなかった。ただ、大切なのはまず健康でいること。家族も自分自身も、ウイルスに感染しないように、人に感染させないように心がけながら、家でできる楽しみを見つけながら過ごせた1ヶ月間だった。

 こういう時間がストレスだったかと聞かれると……、どうなんだろう、ストレスだったのかなあ……。あまり、ストレスとか感じないタイプなんで(苦笑)。大変な人は本当に大変だったと思う。でも、僕はどうだったかと聞かれると、どうなんでしょうね(笑)。

 今までの人生で、メンタル的にやられたって時期を、僕は経験していない。そういうことを感じるような出来事なんて、僕にはなかった。大学時代、確かに「負けたら二部に落ちる」という試合も経験したけれど、結果的には落ちなかったからね(笑)。

 プロになってからは2011年に甲府でJ2落ちを経験しています。何があの時に起こったかということは、記憶力はいい方なので明確に覚えています。ただ、もう時は過ぎているし、時間は前に進んでいますからね。引きずっても仕方がないから。後悔しても、何も始まらない。それは子どもの頃から、そうでした。まあ、何も考えていなかったってことです(笑)。

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