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【SIGMACLUB7月号】サンフレッチェを支える人々/中国ジェイアールバス株式会社代表取締役社長 前田昌裕氏・運転士 松本芳範氏「広島を元気にするために、共に頑張っていこう」

新型コロナウイルスの影響は大。それでも、やれることをやる

 

新型コロナウイルスの感染拡大、それを要因とする緊急事態宣言の発令は、日本経済に大きな打撃を与えた。特に顕著なのが外出の自粛による飲食業界、そして旅行業界であることは言うまでもない。

サンフレッチェ広島のパートナー企業であり、クラブエンブレムとロゴを大胆にデザインした選手バスを運行している中国ジェイアールバス株式会社もまた、例外ではない。その現実をまず、前田昌裕社長に語って頂いた。

「もちろん大変な状況で、今は耐え忍ぶしかないというのが実感ですね。現実を見ても、収入はかなり落ち込んでいます。高速バスも全25路線中で運行できているのは5路線のみ。鳥取県を除く中国4県で貸切バスの運行も行っているのですが、こちらも厳しい状況。「めいぷる〜ぷ」という観光を目的とした広島市内の循環バスも4月25日から全便、運行休止中です(いずれも5月27日現在)。経営的に大変な状態であることは間違いないですが、それは私どもだけでなく、業界全体のことですので」

今回の難しさは、経営努力だけではどうしようもないということ。国をあげての「ステイホーム」「外出を自粛しよう」というキャンペーンである。もちろん、社会情勢を考えれば致し方のないこと。しかし、前田社長は「この機会だからこそ、できることがある」と前を向く。

「鉄道同様にバスも社会のインフラ。こういう時期だからこそ、しっかりと維持していく必要があります。今は耐える期間、でも一方で鍛錬・教育ができる期間でもあるのです。社会に日常が戻り、運行再開の日は必ずやってくる。その時に備えてまずはバスをしっかりと整備し、運転士の教育にも力を入れています」

もちろん、感染症に対する対策も重要だ。

「抗菌抗ウイルスの薬剤をバスの中に施す。消毒液をバスの入口に設置して、お客様に常に手指を消毒していただけるようにする。長距離バスについても、窓側の席だけ販売して通路側の席は使わないでいただくとか、運転席のところにビニールカーテンを設置して感染を防ぐとか対策を考えています。少しでも安心して乗っていただける、そういうバスにしていきたい」

前田社長はもともとJR西日本で様々な仕事を担当してこられた方。2016年、中国ジェイアールバスに社長として赴任したのだが、鉄道とバスには共通した要素があるという。

「まずはお客様に安心して、安全に乗っていただける交通機関であり続けなければいけないということ。その上で、お客様に選んでいただく魅力を磨いていく必要もある。そこも共通していますね」

ただ、軌道系の交通機関である鉄道と違い、公道を走るバスは運転士の技量が「安心・安全」に向けて大きな要素を占める。

「右に曲がるか左か、真っ直ぐに行くか。動くも止まるも、全てが運転士の判断一つ。舗装された道路の上を運転士が自分の判断で安全を守って運行していく。それだけ運転士に対する責任と負担が重いのです」

乗客全員の生命という大きな責任を背負って運転士は毎日、バスを走らせる。安全運行で当たり前。万が一でも事故は許されない。そんな厳しい職務に誇りをもって従事しているのが、松本芳範さん。キャリア15年のベテランで、松本さんもサンフレッチェ広島選手バスのハンドルを握る。

 

安心、そして安全。そのために技術を磨く

●前田昌裕社長/1958年生まれ。大阪府出身。1982年、国鉄(現JR)に入社。少年時代から鉄道が大好きで、就職も鉄道会社しか考えていなかったという。「親しみがあってすごく話しやすい社長」(松本さん)

 

ここからは、お二人へのインタビュー形式で、記事を進行していきたい。

松本●昔からバスの運転士に憧れていたんです。大きな乗り物を乗りこなす運転士さんがカッコいいと思っていて。幼い時の夢が今、そのまま叶ったような気持ちですね。

……バスの運転士になるためには?

松本●大型二種免許取得が必要になります。私の場合は入社前に自動車学校で取得して、そこから正式に入社の運びになりました。

前田●普通免許しかお持ちでない方も当社の入社試験を受けていただけます。採用内定後に大型二種免許を取っていただくのですが、その取得費用は会社が肩代わりして、何年間か働いてもらえれば返済も不要です。

松本●その後は先輩方からの指導を受けて技術を伸ばしていきます。

前田●高速バスや12m級の大型バスを運転するには、経験が必要になりますからね。まずは普通の乗合バスを担当し、狭い道の運行などで技術を磨き、厳しい先輩方の指導もうける。何年も経験と実績を積み上げて、ようやく高速バスに乗る訓練に入れるんです。

松本●先輩はどんな細い道でもスイスイと進んでいくのですが、自分はやはり怖かったですね(苦笑)。離合が難しいところ、ガードレールもなかったり、積雪があったり。「どうやって、この道を行ったんですか?」と先輩に聞きながら、少しずつ経験を重ねていきました。

前田●路線バスに乗るのも指導員がついて、何ヶ月も練習する必要がありますからね。その上で、1人で運転できると(会社が)判断して初めて、1人で運転できるようになります。高速バスに乗れるようになるには、1年半から2年、最低でもかかりますね。

 

緊張感の中にも温かさ。サポーターの声援に鳥肌も

●松本芳範運転士/1979年生まれ。広島県出身。Jリーグ開幕以来からのサンフレッチェ広島サポーター。運転は堅実で「技量は間違いなく、安心して任せておける運転士の1人です」と前田社長も太鼓判を押す。

 

……サンフレッチェ広島へのサポートについて。

前田●2015年の優勝パレードの時に初めて、サンフレッチェ広島さんとの大きなお仕事をさせていただいたと記憶しています。

松本●そうですね。

前田●2016年、私が赴任した直後にサンフレッチェさんからご提案を頂いて、今の選手バスを年間契約でやらせて頂くようになりました。2017年からでしたね、運行は。

中国ジェイアールバスは広島で商売をさせて頂いている会社ですし、サンフレッチェ広島さんは地域住民の心の拠り所。そういうクラブからお話を頂けた。本当に嬉しかったし、できる範囲のことを最大限やらせて頂きたいと思いましたね。デザインはサンフレッチェさんからご提案頂いたので、車内も含めてチームの世界をつくっていきたいと考えました。シートは最高ランクのグレード、充電用のコンセントなど選手のみなさんに使いやすいような機器も設置しました。

……車内の選手たちはどんな様子で過ごしているのですか?

松本●エディオンスタジアム広島に到着するまで、みなさんはほとんど言葉を発さないんですよ。城福浩監督も含め、挨拶をした時は笑顔なんですが、緊張感を凄く感じます。

前田●そうなんだね、やっぱり。

松本●はい。ただ、スタジアムに到着した時、サポーターさんが花道をつくって、凄い声援をして下さるじゃないですか。窓を閉め切っていてもその声援は聞こえるし、光景も見える。運転していても、鳥肌が立ちますよ。

前田●なるほどね。

松本●この選手バスを運転する時は、中国ジェイアールバスとサンフレッチェ広島、二つの看板を背負っているような感覚があって、気持ちが引き締まります。

……チームの魅力はいかがですか?

松本●一つだけ、エピソードをお話させて頂くとすれば、試合後に城福監督が「明日は息子の結婚式があって、練習に顔を出せない。申し訳ない」と言われた時があったんです。その時、選手のみなさんが大拍手で祝福されたんですよ。

前田●おおっ。

松本●本当にあたたかい雰囲気でしたね。

前田●地域に密着し底力もあるサンフレッチェを応援していくことで、結果として広島が元気になる。その循環から我々の名前を知ってもらえることに繋がっていく。

スポーツは確かに、「不要不急」なのかもしれません。でも、人間が暮らしていくためには、米が食えればいいという訳ではない。心の豊かさも当然、必要です。サンフレッチェが素晴らしい試合を見せることで、スポーツが好きな人たちを幸せにしていく。そのプロセスは本当に重要な、社会にとって替えがたいものなんです。広島を元気にするために、一緒にやっていきたいと思います。

松本●僕もサッカーをやっているんですが、今は自分たちの試合もできない。サンフレッチェの観戦もできません。早く日常が戻ってくればいいなと思います。

前田●私たちの仕事である「観光」も不要不急。でも、心のバランスを保つためにスポーツを見ることを必要とする人もいれば、旅行に行って違う景色を見ることを大切にしている人もいる。それを全部遮ってしまう社会は、いつまでもは続かない。もう少し事情が許すようになれば、もちろん感染予防はしっかりしながら、どんどん観光旅行に出掛けて行って欲しいなと思います。

松本●はい。

前田●近い将来に完成する新スタジアムについては、バスセンターの近くに建設されることもあり、おおいに期待していますね。JR西日本で今、再開発に取り組んでいる広島駅周辺と紙屋町近辺が共に発展していくようになれば、広島にとってはすごくいいこと。いずれ、カープとサンフレッチェのダブル優勝が実現して、共に優勝パレードのお手伝いができれば、最高ですよね。

 

●中国ジェイアールバス株式会社プロフィール

1988年設立。路線バスの運行や貸切バス、高速バスの運行などが主な業務。サンフレッチェ広島だけでなく広島ドラゴンフライズの選手バスも運行している。定期観光バス(現在は運休中)として人気を博している「二階建てオープンバスめいぷるスカイ」は、サンフレッチェ広島や広島カープの優勝パレードにも使用されている。

 

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