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【THIS IS FOOTBALL】サポーターの拍手が響くスタジアム

誰も強要していない。それでも、サポーターは手を叩いた。3000人の拍手が、スタジアムに鳴り響き、選手たちのプレーを讃えた。

その音色の、なんと美しいことか。DAZNごしでも聞こえていたが、ライブだともっと音量が大きく、荘厳な響きすら感じさせた。

Jリーグ発足以前のことを思い出す。当時、記者はワールドカップを見る程度のサッカーファンだった。「サッカーのプロ化」という話題は耳に入ってはいたが、それがどういう意図で、どういう意味を持っているのかすら、わかっていなかった。

ただ、あるサッカー好きの人がこんなことを言っていたのは、鮮明に覚えている。

「日本人はサッカーが下手。プロになったからといって、急に上手くなるはずがない」

当時は説得力を持っていた。プロスポーツは野球と相撲とゴルフとボクシング、という具合の日本である。「サポーター」という言葉も存在せず、プロ野球のファンまの声援がどれほどの力をもってチームを支えていたかなんて、考えもしていなかった。相撲は完全に「観客」であり、ゴルフはギャラリー。ファンがチームや選手を支えるなんて想いもしていなかったから、「プロになってもすぐに上手くならない」という意見は、当然のことかなと思っていた。

だが、実際はどうだったか。プロ野球以来のチーム・プロスポーツ誕生となったJリーグは世間の関心を呼び、積極的なプロモーションとの相乗効果でスタンドに観客が押し寄せた。それまで知り合いくらいしかスタンドにいない環境でプレーしていた選手たちは大きな変化に驚いたが、一方で闘志をたぎらせる。

こんなに来てくれたんだ。頑張らないと。

その思いがひたむきさを呼んだ。必死に走り、戦い、倒されても立ち上がった。失点しても諦めず、まずは1点、次の1点と、必死に前を向いた。

日本リーグの試合もテレビで見たことがあるが、ほぼ観客がいない状況で、選手たちの動きはとても緩慢に見えた。ワールドカップとは全く別世界。上手いとか下手とか、そういう問題ではなく、必死にプレーする姿がまるで見えなかった。「つまらない」。次にまた見たいとは思わなかった。

しかし、Jリーグは違った。選手たちの誰もがプロサッカーの成功に懸け、どんな状況であっても全力を尽くした。そのひたむきさが観客の好感を呼び、スタンドは「支えたい」「彼らを勝たせたい」という情念が生まれた。「サポーター」という言葉が一般化した時もその語感が持つ「支える」という響きに実感を持てた。

サポーターの存在が、間違いなく日本サッカーを強くした。当初はただガムシャラなだけだった選手たちが、いつしか冷静さを保ち、技術を磨き、戦術眼を身に着けはじめた。もちろん、プロとしてサッカーに集中できる環境が整ったこと、海外からやってきた指導者や名選手の存在、日本サッカー協会の育成プログラムなど、多くの施策がうまくはまったこともある。しかし、日本サッカーの急激な成長にはサポーターの存在を無視するわけにはいかない。むしろ、主役だったと考える。サポーターが必死にクラブや選手を支える姿がまずあって、その期待に応えたいと選手たちが成長への階段を必死で駆け上がった。そのストーリーなくして、日本サッカーの成長はない。

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