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【PRIDE OF HIROSHIMA】エゼキエウ/No.14、誰がために戦う

ずっと虚ろだった目の力が、少しずつ回復してきた。日本にやってきた頃の陽気で、自信に満ちていた雰囲気ではまだないが、明らかに1ヶ月前とは違う。

エゼキエウのことである。

彼が広島で結果を出せていないのは、ほとんどはメンタルの要素が強い。もちろん、日本とブラジルのスタイルが違うということもある。ここまでほとんど求められていなかった守備についての戸惑いはあった。戦術的な意識も薄かった彼にとって、攻撃でも守備でも広島のやり方を理解するのに時間がかかった。ブラジルで身体を動かしていなかったこともあり、フィジカルコンディションを取り戻すのも難しかった。ただ、そういうことは、いずれ解決できた問題。なぜなら彼は素直であり、謙虚であり、前向きであり、会話が成立する大人な感覚も持っているからだ。「自由だったブラジル時代」を懐かしむのではなく、新しいステージに向かって前を向きたいと考えているからだ。

だが、そんな彼を襲ったコロナ禍。自粛期間に体重が4キロも落ちてしまったというエピソードは、彼がいかに真面目に「自粛期間にとるべき行動」をトレースしていたかの証明であり、そしてメンタル的な窮地に追い込まれていたかを示すものでもある。1月に結婚したばかりの新妻はコロナ禍の影響でビザの発給が許されずに来日できず、Jリーグの再々の延期によって自分の存在価値も見いだせない。

それでも練習が再開した時は、開き直って前を向いていた。妻のビザ発給に向けても前向きな知らせがあり、彼女の来日を心待ちにしていた。孤独には慣れていない。生活面で楽しさを見つけられれば、サッカーもうまくいくと考えていた。再開初戦の神戸戦でベンチ入りを果たし、評価は間違いなくあがっていた。

ところが大分戦の直前に足を故障。もしかしたら先発もあると思われた矢先の怪我が、彼を落ち込ませた。メディカル的には重いものではなかったが、痛みがひかない以上は無理もできない。彼がトレーニングできるようになるまで3週間が必要だった。

その間、妻の来日も難しくなった。新型コロナウイルスの陽性反応者が増加したことを受け、日本政府が外国人の入国規制を緩めなかったことが要因の一つ。致し方ないとはいえ、エゼキエウの心は曇った。

「毎日毎日、なにごともなかった日がなかった。いつも何か、難しいことが起きていた」

(残り 1043文字/全文: 2007文字)

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