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【PRIDE OF HIROSHIMA】茶島雄介/冷静な技術家

試合の状況を現場感覚で教えてもらおうと思った時、かつては自然と背番号8を探していた。森﨑和幸に言葉を投げかけ、彼の冷静な分析を訊いてスタンドからの視点とのギャップを埋めていた。

ただ彼は、広島史上最高のボランチであると共に、最高の職人でもある。質問する側がしっかりとした見解を持っていないと「それなり」の言葉しか戻ってこない。それは、どれほど長い時間をかけて関係性を深めても同じことだ。だからこそ、彼へのインタビューは、記者にとっても緊張感を強いる。

今、カズのような存在がいるかと問われると、果たしてどうだろうかという想いになる。青山敏弘は決して分析家ではないし、それは柴﨑晃誠も同様だ。頭の中で理解していることを言語として整理し、それを表現する能力は、そう簡単に身に着けられるものではない。

ただ、もし彼が試合に出ていたとしたら、試合後にコメントを聞きたくなる存在はいる。それが、茶島雄介だ。

もともとボランチでプレーしていた彼は、ゲーム全体を見る能力にも長けている。技術に優れ、戦術眼も的確。今はワイドで機能しているが、今もし「ボランチが足りない」という事態になれば、彼を使ってもいいと個人的には考える。キックの精度も高いし、守備も頑張れるようになった。青山のコンディションが落ちた時は、彼と川辺駿とのコンビも見てみたいという気持ちもある。

大分戦で均衡を破ったのは、茶島のダイレクトハイボールがドウグラス・ヴィエイラに前を向かせたところからスタートしている。得点後、城福浩監督が茶島に「ナイスボール」と声をかけたほど、絶妙な「パス」だった。ドウグラス・ヴィエイラとCBとの間にポトリと落ち、絶妙なスピンがかかって相手にボールを渡さない。茶島のパスがしっかりと9番に通ったからこそ、相手の守備陣形が乱れ、森島司をフリーにさせた。

ただ、このパスは決して「狙い通り」ではなかったと言う。

「アバウトなボールを前に入れたら、相手が対応を間違えてくれた」

なんとも正直すぎる彼の言葉。

「あの時間帯はドグが入ってボールをおさめてくれていたので、そこで起点をつくって攻めた方が手っ取り早いかなと感じた。それがうまくいきましたね。バックスピン?まあ、ああいう蹴り方をしたら自然とそうなりますから」

全ての物事が論理的ではない。現象には必ず理由はあるが、その理由が偶発的なこともある。特にパワーはあるが不安定な「足」という「ツール」を使ってボールをコントロールするサッカーにおいては、ミスとか偶然とか、それがゲームを動かすことはむしろ日常。偶然を必然に変えていくのが戦術だが、だからといって偶然を排除することはできない。

ただ、確かにあのボールに対して相手はミスをしたのかもしれないが、それを生み出したのは「早目にドウグラス・ヴィエイラのもとへボールを届けよう」と判断した彼の「視点」である。これは偶然ではなく必然。ダイレクトではなくボールを止めていたら、局面は全く違っていたし、相手の対応も変わった。ドウグラス・ヴィエイラではなく違う選手を選択したとしたら、ゴールはなかった。結果は偶発的でも、そこに至る過程は論理性に富む。そういうプレーでなければ、ゴールを割ることはできない。

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