【サッカー人気5位】【J1騒乱】激戦の予感しかないJ屈指の…

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【SIGMACLUB10月号※立ち読み版】藤井智也/プロ0年目

劣等感とか疎外感とか

 

どうして、僕は試合に出ているのだろう。

結果も出せていない自分を、監督はどうして起用してくれるのだろう。

周りの人たちはどう思っているのだろう。

きっと面白くないに違いない。

絶対にそうだ。

 

藤井智也は疑心暗鬼の塊になっていた。京都に戻る直前のJ1第13節・仙台戦を前にして、迫井深也コーチに対して思わず、言葉が出た。

「僕が使われているのは、若いからとか、将来への期待値とか、そういう要素も踏まえた同情なんですか?だから、実力が足りないのに使われているんですか?」

サンフレッチェ広島を取材し始めて25年になるが、こんな質問を投げかけた選手を、見たことも聞いたこともない。迫井コーチにしても、長い指導者人生の中で、プロ選手からこういう言葉を聞いたことは、過去になかったはずである。とてもではないが、プロフェッショナルの発言ではない。

藤井の言葉から、このシーンを再現してみる。

「おまえ、何言ってんの!」

迫井コーチは本気で怒った。

「こっちだって、人生をかけて仕事をしているんだ。その上で、どれだけ考えてメンバーを選んでいると思っているんだ。戦力だからこそメンバーに入っている。

同情とか、そんなものが入る余地なんて、あるわけないだろ。そんなことで、プロの選手をメンバーに入れたり、外したりなんて、できるわけもない」

迫井コーチの怒りは当然だ。プロの仕事に対しての冒涜にも似た、発言である。

時が経てば「あいつもまだ幼かったからな」と笑って許せても、その言葉が発せられた瞬間は、怒りがおさまらない。僕であれば、間違いなく大声が出る。指導者は冷静でなければならないが、その前に人間だ。

その質問が失礼極まりないことは、藤井自身にもわかっていた。だが、それは彼にとっての本音でもあった。

「本当にしんどいんです。実際、笑顔も減ったと思います」

藤井の苦しさは蓄積されていた。

「浦和戦くらいからはっきりと自分に対して対策をされるようになって、今までどおりにいかないことにストレスを感じていました。途中から出場してもチームに貢献できていない。そこは自分自身が1番、わかっているんです。

結果が出せないことに対して、劣等感というか疎外感というか。そういうコンプレックスを感じてしまっている。周りにどう思われているんだろうとか、知らないところで何か言われているんではないかとか、考えなくてもいいことまで考えてしまった」

ストレスは、プレーから自信を失わせた。

どうしたらいいんだろう。

そればかりを考えて、真っ白になった。全身が迷いだらけになり、「やらなきゃ」という気持ちばかりが空回りしていた。

「結果を出していないことはもちろん……、何に自信がないんですかね……」

苦しい。

自分がやれているんだろうかという実感のなさが、不安を呼び込んだ。

最初の頃は試合に出ているだけで十分だった。若くて勢いがあるなと周りは見ていたし、それは藤井の実感と一致していた。  だが時間が経つにつれ、ただ試合に出て走ってだけでは物足りなくなる。アシストとかゴールとか、得点に絡むプレーを必要とされる。特に途中交代では明確な結果が求められるわけで、それは藤井自身も感じている。

「その期待に応えきれていない自分に対しての、ストレスなんです」

果たして、そうだろうか。

それだけだろうか。

彼がストレスに感じていたのは、周りの期待よりも前に、自分のプレーそのものに対するものだったのではないか。楽しくサッカーができていない自分に対しての苛立ちではなかったか。

若さとは可能性であるが、一方で不安の塊でもある。できるのか、やれるのか。きっとできると思うけれど、本当にそうなのだろうか。可能性というものを信じられる時もあれば、全てを否定したくなる時もある。

全ては現実が影響してくるのだが、その現実がポジティブにもネガティブにも大きく振れる。それもまた、若さの特徴だ。

人生においてはうまくいくことの方が少ない。だからこそ若者だけでなく、人はいつも悩み、苦しむ。その苦しみから逃れるために宗教が生まれ、運や易学などの非科学的なものに救いを求めたくなる。

苦しんでいるのは藤井だけではない。試合に出ていない選手たちは当然のこと、先発で出ている選手たちもまた、辛い思いを胸に刻んでいる。

側から見れば「気持ちよくやれているんだろうな」と思えても、その選手もまた違った種類の悩みを抱えているものだ。藤井は「(浅野)雄也くんのようなメンタルなら、(自分とは)違うんだろうな」と口にしていたが、浅野は浅野なりの悩みを抱えている。

だが、本気で辛い想いをしている時、周りのことを気にしてなんていられない。

周りが全て優れて見えるし、疑心暗鬼の塊になる。暴言レベルの藤井の言葉は、自分ではどうしようもなくなった故の叫びだった。

迫井コーチはその言葉に対して、若さゆえの苦笑いでやり過ごすこともできた。しかし、彼は本気で感情を表現し、若者に対峙した。そのことが少しだけ、藤井の気持ちを軽くしたのかもしれない。

「まだ、自分自身を信じることができていない。半信半疑というか、疑問が残るというか。ただ悩みについては、もう1周、回りました。(迫井コーチの)そういう言葉を聞いたり、自分で考えたりしながら出た結論は、『いろいろと考えすぎてもダメなんだな』ということなんです」

迷っても悩んでも、現実からは逃げられない。だったら、もっと笑うようにしよう。笑顔ですごそう。前向きにやっていこう。

「遅かれ早かれ、こういう課題には必ず、直面していた。この時期でよかったし、この悩みを抱えている人は、他にはいない。試合に出ても何かを残せているわけではない。もっともっと、いい選手になりたいといつも思っています」

藤井は気持ちをなんとか、前方方向へと動かそうと決めた。それは彼が立命館大に戻る直前のことだった。

 

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