SIGMACLUBweb

怖いチームは一つもない/広島1-1仙台

ジュニオール・サントスの言葉が胸をつく。

「僕たちが怖れないといけないチームなんて、1つもないんだ」

仙台に残り一分のところで失点し、1人少ない相手に勝点1を与えるという失態。誰もが下を向き、怒り、嘆息した。要因は様々だろう。だが、現実は現実。もう結果は戻ってこない。

だが、それでも移籍初出場でゴールを叩き込み、相手を恐怖に陥れたストライカーは、「このチームはクオリティが高い」と断言。「全く、怖れることはない。前に行けばいいんだ」と。

どうして広島はリスクをおかして4バックに変更したのか。

様々な理由を城福浩監督もあげていたが、最大の理由は「攻撃」。攻めるために、前線の選手たちを増やした。つまり、広島は攻撃のために伝統の3-4-2-1を変えたのだ。

ただ、攻撃に出るということは、戦術や戦略だけではうまくいかない。もっとも大切なのはメンタルだ。なぜか。

攻撃には常にリスクが伴う。前に出ることは、後ろにスペースを与えることとイコールで、裏をつかれるとかなり厳しい状況になることは間違いない。「相手陣内でサッカーをやる」ということは、自陣にはカウンターを受ける余地が必ずあるわけだ。

それでも、前に出る。失点を怖れるよりも、得点をとる。

そのメンタリティーがチームとして充満しているかどうか。

相手に対して少しでも「怖い」と思っていたのなら、前には出られない。「点をとる」という気持ちを90分間続けられないと、攻撃サッカーは続けられない。

確かに広島は開始早々から、前に出た。だが、ジュニオール・サントスの突破からシマオ・マテが退場するまでの27 分間、広島のシュートは1本だけ。このプレーで得た森島司のFK は大きく枠を外れたが、これが2本目のシュートだった。

得点シーンはスローインからの遅攻から生まれた。20本のパスをまわし、青山敏弘の縦パスから浅野雄也を経由してのゴールだった。崩したというわけではない。しかし、チャンスと見るや決断したストライカーの意識が、ゴールを生み出した。

相手の退場から5分以内にゲットしたゴール。弱ったところを殴りにかかってねじ込んだ得点は、形がどうこうではない。「絶対にここで決めてやる」という強い気持ちが引き出したのだ。

攻撃サッカーを標榜するのなら、さらに1点、もう1点と重ねていく必要がある。

普通に考えるならば、相手が1人少ない状況でしかもリードしている状況なのだから、むしろ落ち着いて自陣で構え、同点に追いつきたい仙台を引き込んでスペースをカウンターでつけばいい。

だが、そういう試合巧者ぶりは一度、投げ捨てる。それがチームとしてワンランク、ステップアップを果たすことへのきっかけになるのではないか。点をとる度にギアをあげ、失点して沈んでいる相手に対して、かさにかかって攻め立てる。そういうメンタリティーが勝利を呼び込んでいるのが、2019年の横浜FMであり、2020年の川崎Fだった。

後半、広島は自分たちでボールを奪って前に出て、得点を狙う意識を高めた。打ったシュートは前半の倍になる12本。一方、仙台のシュートが前半のゼロから6本に増えたのはカウンターを受けてしまったからだが、それも広島が前に出ていた証明でもある。

ただ、本当の意味で「攻撃サッカー」を表現するのならば、前に出るだけでは物足りない。前でボールを奪う。PAの中にどんどん入っていく。止まってクロスを待っているのではなく、動きを見せる。相手が守備を固めていても、強引にでもねじ込む。前に選手が立たれても勝負する。

もちろん、リスクは高い。だが、リスク上等の想いが優先しないと、平均得点2点以上のタイトルラインには届かない。

(残り 913文字/全文: 2414文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ