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誰かのために/小川愛(サンフレッチェ広島女子チーム)

 

WEリーグ開幕に向けて、一歩ずつ一歩ずつ動き始めた。

今日、サンフレッチェ広島は、WEリーグのプレシーズンマッチの日程を以下のとおり発表した。

  • 5月8日(土)14:00〜

 vs大宮アルディージャVENTUS@NACK5スタジアム大宮

  • 5月22日(土)13:00

 vsジェフユナイテッド市原・千葉レディース@広島広域公園第一球技場

  • 5月29日(土)14:00〜

 vs三菱重工浦和レッズレディース@浦和駒場スタジアム

  • 6月5日(土)13:00〜

 vsINAC神戸レオネッサ@広島広域公園第一球技場

 チケット販売などの詳細はまだ決まっていないが、嬉しいのは会場が第一球技場、つまりサッカースタジアムで行われるということ。来るべき新スタジアム完成に向けて、少しでもサンフレッチェファミリーにサッカースタジアムでサッカーを見る楽しさを味わって頂きたい。

さて、SIGMACLUB WEBでは3月から少しずつではあるが、女子チームの情報をお伝えしていきたい。特に選手たちの魅力について、ご紹介していきたいと考えている。

最初に誰を紹介していこうか。近賀ゆかりや福元美穂といった世界一メンバーにしようか。

上野真実や増矢理花ら日本代表経験者にするべきか。

悩んだあげく、今回はルーキー・小川愛をご紹介したいと思う。

慶應義塾大学から加入した小川のポジションはボランチ。攻撃が得意で、大きな展開やミドルシュートが得意だと言う。

「青山敏弘選手のようなタイプなんですね」

そう言うと、愛くるしい顔をクシャクシャにして、「(青山選手に)近づけるように頑張ります」と笑った。もっとも、サンフレッチェの男子チームについては「今、勉強中なんです」(小川)ということなので、青山敏弘をどれだけわかっているかは、わからない。

彼女をまず取り上げたいと思ったのは、異色の経歴を持っているからだ。

慶応大ソッカー部(慶応ではソッカーと呼称する)に入部したばかりの頃のブログ(慶應義塾大学ソッカー部女子リレー日記)から引用したい。

 


「私は、父の転勤で生後間もなくからミャンマー、ナイジェリアで暮らしました。小さい頃からボールを蹴るのが大好きで、小学1年生になる頃帰国すると、バディFCというクラブチームで本格的にサッカーを始めました。バディのコーチには、サッカーだけではなく生活面においても厳しく鍛えていただき、とても感謝しています。

9歳で大好きだったバディを離れ家族と一緒にベトナムへ行き、インターナショナルスクールに入りました。環境が変わり言葉の壁にも苦労しましたが、それまでの様に整った環境でサッカーの練習や試合が出来ないことが一番の悩みでした。しかし、サッカーのお陰で友達が増え、一緒にプレーすることで自然に英語も上達し自信を持つことが出来ました。

現地の孤児院の子供たちが、スパイクも履かずに裸足で目を輝かせサッカーをしていることに驚いたり、イスラム教の友達がヒジャブを着けながら果敢にサッカーをしている姿に励まされたり、サッカーを通じて視野を広げることが出来ました。

公式戦もなく、技術を高める練習は出来なかったかも知れませんが、サッカーがもたらす夢や希望によって人は変わることが出来るということ、またサッカーには言葉や文化や宗教の違いを越えて人々と繋がれる力があることを、自分の肌で感じることが出来ました。

この体験が、将来はサッカーを通じて貧困等の社会問題解決に貢献したいという目標に繋がり、SFC総合政策学部を志望するきっかけとなりました」 


彼女の原体験は、ここにある。

ミャンマー、ナイジェリア、そしてベトナム。いずれも発展途上国であり、貧困に悩む国でもある。あえて記しておくが、こういう国々の「貧困」は日本人の想像を遙かに凌駕すると考えた方がいい。

日本は全てが整備され、清潔で、安全だ。それはベースに豊かな経済があるからこそ。一方で発展途上国と呼ばれる国々は、いくら社会資本を整備したくても、その原資がない。人々は日々の食事にも苦しみ、住居や衣服にも困る。ただ、そういう貧困に苦しむ人々がサッカーを興じ、瞳を輝かせてボールを追いかける姿を幼い時から彼女は見てきた。だからこそ、小川愛は信じている。サッカーの力を。

中学になる時、小川は家族のもとを離れ、女子サッカーの名門中の名門・神村学園(鹿児島)に入学する。福元美穂をはじめ、山口千尋、上野真実ら広島女子チームのメンバーを輩出するなど、日本の女子サッカーに大きく貢献している学校だ。

「中学・高校と6年間は寮生活で、とにかくサッカーに打ち込みました。全てをサッカーのために注いだ日々でした」

高校2年生の時に全国女子サッカー選手権準優勝、3年の時には3位と結果を残す。ただ、そういう実績もさることながら、彼女がこの6年間で学んだものは「誰かの為に、魂の体現」という部の合い言葉だったという。そしてこの「誰かのために」は慶応大ソッカー部のパンフレットに書かれていた「慶應は誰かの為に闘った時、真の裁量を発揮出来る」という言葉に通じている。

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