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ボールを握ってもゴールできるようになる/広島が目指す道

ボールを支配すればするほど、勝てなくなる。

2020年の広島は、そういうジレンマに陥った。「相手陣内でサッカーをしたい」という目標を掲げていて、そのためにはボール支配率をあげないといけない。なのに、ボール支配率50%台のゲームは34試合中15試合にとどまり、その戦績は2勝6分7敗。支配率55%を超えた試合では4分4敗。繰り返すが、ボールを持てば持つほど、勝てなくなっていた。

今季、城福浩監督がある程度の計算ができる3バックから4-4-2へのフォーメイション変更を決断したのは、この結果が主たる理由である。

昨年の広島は30%台のボール支配率に終わったゲームで5戦全勝。平均得点2.6、失点は5試合でわずか1。内容的にもアウェイ札幌戦(2-0)以外は「やられた感」がなく、ボールを持たせた上での完勝という感覚だった。一方、50%台の試合では17試合中複数得点は2試合のみ。完封された試合は7試合を数えるなど、とにかく点がとれない。一方で平均失点は1.0、複数失点はわずか2試合。

この数字を見ると改めて、ポゼッションが有効な守備戦術ではあるものの、攻撃の戦術に転換するのは困難であると感じる。

ボールを保持することは速攻ではなく遅攻が主軸になりがちだ。遅攻ということは、相手が守備ブロックをしっかりと構築している中での攻撃となる。ほとんどの場合、数的には不利であり、スペースも消されている。そこでゴールを奪うためは、そのブロックを破壊するほどのパワーか、守備の選手たちが驚いて混乱するようなアイディアが必要になる。

かつてミハイロ・ペトロヴィッチは、低い位置でボールを保持して相手を自陣に誘いこみ、スペースをつくりだすという驚きの戦術を駆使して、ボール保持と攻撃力を両立させることに成功した。しかし、その戦術が研究されると、相手が前に出てこなくなる。浦和や札幌でのペトロヴィッチ戦術は、広島時代とは違う形になった。当然のことだ。

とはいえ、ボール支配率30%台でチームがうまく回ったとしても、それで安定した戦績は残せない。実際、昨年の30%台は、鹿島・神戸・札幌・横浜FM・名古屋といった能力の高いチームを相手にした試合で記録したもの。だが、他のチームは広島に対して「ボールを持たせてきた」か、あるいは「ボールを持てなかった」か、いずれにしてもボール支配率は30%台にはならなかった。

FC東京は2試合とも60%前後の支配率を広島に許したが、結果は3-3と0-1で勝点4を奪取。浦和戦は埼玉スタジアムで65.7%、エディオンスタジアム広島でも59.8%、広島がボールをもっていた。その結果、広島はレッズを相手に勝点1しかとれなかった。G大阪戦では、パナソニックスタジアム吹田で54.9%、エディオンスタジアムでは57.2%、広島はボールを握ったのに、奪った勝点は0。

優勝を目指すのであれば、ボール保持力を高めて相手にチャンスを与えないという守備の安定をベースにして、ブロックをつくられても得点できる破壊力を持たねばならない。かつてボール支配率50%以下のチームで戴冠した王者はほとんどなく、広島も優勝した時はしっかりとボールを握っていた。裏を返せば、ボールを握っても相手を崩せる攻撃力を持っていることが優勝への大きな条件なのである。

「残留だけが目標であれば、変化はミニマムでいい」

シーズン前、城福監督はこう言った。言い方を変えれば、上を目指すためには変化は必須だ、ということだ。

では、どういう変化が必要なのか。

指揮官は「3つのことを追求したい」と語った。

①可変システム

②左右非対称

③BOX INとBOX OUT

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