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【短期集中連載】王者・川崎Fといかに闘うか〜第5章/藤井智也、狂気の才能に期待する

川崎Fの強さはもはや、秩序に近い。

かつての日本プロ野球では9連覇という大記録があるが、それを達成した巨人軍はまさに秩序そのもの。プロ野球界全体が、彼らの勝利を前提として動いていた感すらあった。同時に、王貞治のホームラン王もまた、秩序そのもの。1962〜1974年まで13年間連続ホームラン王を獲得し、そのうち40本以下がわずか二度。ホームラン王を逃した1975年も33本の数字を残し、引退を決めた1980年すら30本、打っている。王貞治がホームランを打つことは、当時のプロ野球界にとって当然のことであった。

川崎Fもまた、勝利が当然のこととなっている。リーグ戦だけでなく、ACLや天皇杯でも不敗。Jリーグをとりまくこの社会の中で、彼らが勝利を握ることは何の驚きもない。それはおそらく、広島戦で彼らが勝利を飾ったとしても、周囲は「当然のこと」と感じるだろう。秩序とは、そういうことだ。

もちろん、広島とすればそんな「秩序」などは破壊しないといけない。どういうスポーツであっても、面白いのは混沌だ。何がおきるかわからない、ストーリーが見えないリーグ戦ほどエキサイトする。

現実を考えれば、広島が川崎Fに勝利すると同じカテゴリー内であっても「アップセット」と呼ばれるだろう。29戦不敗、24試合で勝点64。「平均勝点2.0で優勝」というセオリーの値を大きく越える平均勝点2.6ペース。「1試合3点とる」という鬼木達監督の言葉が大言壮語に聞こえないレベルの破壊力に加え、失点もほとんどしない彼らを破るとすれば、24試合で勝点56を叩きだしている横浜FMしかあるまい。それが、大方の見方だろう。

そういう秩序を破壊するためには、何が必要か。

理論や戦略で上回るためには、時間が必要だ。現時点で広島が大事を成し遂げようとするならば、爆発的な何かが必要だ。その爆発を起こすための導火線は、狂気にも似たエネルギーである。広島のチームにある「バランス感覚」や「リスク管理」などを吹き飛ばすほどのパワーだ。

もちろん、バランスやリスク管理が不要といっているのではなく、むしろ勝利には必要な要素だ。だが、洗練や練熟で上を行く相手に戦いを挑むのであれば、どこかで「狂気的な爆発」が必要なのだ。自分自身を引っ張る後ろ髪を断ちきり、自分の力を信じて前に走る。洗練とは程遠いが相手に恐怖を感じさせるパワーこそ、必要だ。

その可能性を見るのは、二人の才能。一人はジュニオール・サントス。そしてもう一人は、藤井智也だ。このプレビューでは、スピードスター・トモヤをピックアップしたい。

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