大敗。それでも私たちは、「サンフレッチェ広島」である。
その時、木﨑あおいを襲ったのはきっと、絶望だったはずだ。
単純な横パス。まったくフリーだった松原優菜の足下に合わせるだけでよかった。だが、それが、ズレた。正確にいえば、5番は足下に出したはずだったのに、2番はより後方でパスを受けようと考えた。意志のズレ。それはこの試合、至るところで見受けられ、そしてことごとく失点に繋がっていた。
でも、まさか。こんな場面で。
しかもボールは仲田歩夢に。INAC神戸で数多くのタイトルをとってきた大宮随一のチャンスメイカーが、ワンタッチで前に。
やばい。
精密なボールは、この日既に2得点のFW井上綾香(大宮)の前にピタリと落ちた。
木﨑、走る。走る。走る。
客観的に見れば、どうやっても追いつけない。セットプレーの流れからだから、中村楓も左山桃子もいない。
井上が完全に抜け出した。追いつきたい。だけど、木﨑の思いを大宮FW髙橋美夕紀が邪魔をする。
木﨑の約2m前に、オレンジのストライカーはいる。だが、その2mが、追いつけない。
木稲瑠那が出た。広島の守護神に託すしかない。しかし、落ち着いていたストライカーは、GKの股を抜いた。
ボールはそのまま、ゆっくりとゆっくりと、ゴールと向かった。
だが木﨑はそれでも諦めない。全力で走った。何が起きるかわからない。ゴールになるまで、諦めない。
ネットイン。木﨑あおいも、身体ごと、ネットに入った。
ゴールネットに寄りかかった、レジーナの戦士は、ちょっとだけ、動けなかった。でもすぐにボールを拾い、そして木稲に渡した。
では、彼女はここから諦めたのか。
76分、いつもどおりに高い位置をとり、近賀ゆかりのパスを受けてシュートを放った。
絶対に、絶対に取り返す。強い気持ちを見せた。
それは木﨑だけではない。全てのレジーナたちが、同じ想いを共有していた。
78分、大宮の右からのクロスを井上が落とし、そこにいたのはオレンジの戦士。
あぶない。
だがそこで疾風のように入ってきたのは、島袋奈美恵だった。右ウイングの位置から、自陣前まで戻り、守備に貢献したのだ。
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