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連載●レジーナを彩る華麗な華たち/木﨑あおい「 ニュータイプ・サイドバックは負けず嫌い」〜SIGMACLUB2月号より。

負けることは大嫌い

 

少し肌寒い広島で、木﨑あおいの写真撮影が行われた。

「笑顔で、お願いしますね」

カメラマンが言う。実際、レジーナの写真は笑顔を中心にセレクトしている。キリッとした表情もいいが、やはりレジーナたちは笑顔がキュートだ。

もちろん、木﨑の笑顔も素敵だなと思っていた。だが、彼女は言った。

「笑顔ですか?いやあ、無理だと思います」

「いやいや、そんなことはないでしょう。笑顔も、とてもいいですよ」

お世辞ではなく、本当にそう思っている。

実際、撮影中の彼女の笑顔は、素晴らしかった。魅力的だった。だが、ふと思った。

「ちょっと、笑顔がないパターンも、撮っておきましょうか」

「はい」

驚いた。これぞ、木﨑あおい。まさに、木﨑あおいだった。

彼女の特長は、目力だ。パワフルで、意志が見えて、鋭くて、そして品もある。漫画でアスリートを描くなら、性別問わずきっと、こういう目を描くだろう。それほどの瞳を、彼女は持っていた。

この目を認識すれば、どうしてもこういうことを聞きたくなる。

「負けたくないですよね」

「はい。昔から負けず嫌いでした」

彼女の負けず嫌いは、例えば第5節・対大宮V戦で大敗した後の言葉に、表れている。

「戦術とか、ゲームのつくりのところとか、そこも大切だけど、それ以前に気持ちのところですね。絶対に負けない。そういう戦うところをもっと見せないと、結果はついてこない。まずは球際や1対1のところで負けないこと。目の前の相手に勝てないと、サッカーは勝てない。そこはトレーニングでもっと突き詰めたいです」

サッカーを始めた子供の頃から、木﨑はとにかく負けたくなかった。父親がサッカーの指導者で、兄もサッカーをやっている、そんな家族の影響で始めたサッカーだったが、とにかく兄に負けたくなくて仕方がなかった。リフティングにしても、何にしても。

「全部、真似したい。そして勝ちたい」

兄だけでなく、同級生の男の子たちよりも、上手くなりたかった。リフティングだけでなく、ドリブルも、マラソンだって1位になりたかった。

スポーツでも勉強でも、どんな分野でもそうだが、成長のための最大の要因は、負けたくないという強い気持ちである。もちろん、ある程度の高みを超えれば、気持ちの強さだけではどうにもならない。しかし、その「高み」に到達しようと思えば、負けず嫌いを最大限に発動しないとパワーは発揮できない。

負けることが好きな人間はいない。大なり小なり、人は「負けず嫌い」でできている。だが一方で、人々は必ず、どこかで負ける。その負けた時に、何を思うか。「次は勝つ」と考えるか「勝てなくても仕方がない」と考えるか。成功者の多くは、前者だ。そして木﨑もまた、前者のメンタリティーである。

 

育った浦和を離れる決断

 

中学から彼女は、浦和レディースのジュニアユースチームに加入する。実家のある埼玉県飯能市から練習場であるレッズランドまでは、電車と自転車で約1時間。女子中学生が学校が終わった後に通うのは、かなりの負担になる。実際、トレーニングは1830分〜2030分まで。帰宅への家路は、もう暗い。それでも、木﨑はずっと通い続けた。もっと上手くなりたい。ただ、それだけの想いで。

「浦和の先輩はみんな上手でした。当時の私は身体も小さかったし、何をしても負けてしまうことが多かった。毎日毎日、悔しくて泣いていた記憶があります。本当に全然、ダメダメでした。試合にも出られなかったし」

下手だという現実を突き付けられても、いつか勝ちたいと思った。そのために、まずは基礎の部分を鍛えようと考え、取り組んだ。特にファーストコントロールについては必死にトレーニングを重ねた。

浦和はボールを繋ぐポゼッションサッカーを主としていたこともあり、ベースの技術を身に付けないとついていけない。特に彼女のポジションは中盤。ボールを動かす技術が最も求められる。

少しずつではあるが、木﨑は成長を実感した。ジュニアユースからユースに昇格し、「いつか私もなでしこジャパンに入って、ワールドカップへ」という夢も見た。高校を卒業する時に「美容師になろうかな」と専門学校への進学も考えたが、浦和レッズレディースへの昇格が決まり、練習との両立が難しいと断念。短大に進学し、学びながら浦和レディースでボールを蹴ることを選んだ。

サッカーがしたい。もっと上手くなりたい。

そんな想いを抑えることはできなかった。

1年目はリーグ戦出場を叶えることはできなかった。だがサイドバックにコンバートされてからは試合に絡んでいけるようになった。年代別代表にも選ばれ、実力も評価された。

そんな時、クラブからこんな話を聞かされた。2018年のシーズンが終わった後のことだ。

「別のチームからオファーが来ているんだけど、どうする?」

なでしこリーグ2部(現WEリーグ)のちふれASエルフェン埼玉(EL埼玉)からの移籍の誘いである。

2つの想いが、胸の中に渦巻いた。

「浦和は、私のことをどう考えているのかな。移籍させたいのかな」

ジュニアユースから9年間、ずっと赤いユニフォームを着てサッカーをしていた。このクラブで成長して、もっと上を目指したいと思っていた。栗島朱里(浦和※元日本代表)のような尊敬する先輩もいて、同期には遠藤優(浦和)や塩越柚歩(浦和※元日本代表)ら刺激し合える仲間がいて。なのに……。

でも一方で、「話を聞いてみたい」とも思った。それは、浦和への愛着とは裏返しの感情だった。

「私は《浦和レッズレディースの木﨑あおい》なんだ。でも、それで本当にいいのかな。レッズに囚われすぎているんじゃないかな」

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