「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【練習レポート】『沖縄キャンプレポ5日目』永井秀樹、45歳バースデイ(2016/01/26)

本日、午前のトレーニングは、サイド攻撃のバリエーションを広げ、特にクロスの使い方に重点の置かれたメニューが中心だった。

「動きの質が大事だぞ」、「いつ前に出るのかタイミングを計って」、「ひとつずつ丁寧にやっていこう」と、冨樫剛一監督の声が飛ぶ。中と外が呼吸を合わせ、いかにクロスを有効に使うか。指揮官の要求は、身体の向きやボールの受け方など、細かい部分にまで及んだ。

また、攻守におけるクロスの対応に特化したトレーニングも行われた。ポイントは、クロスを跳ね返したあとのスピーディーな攻守の切り替え。ここは冨樫監督が追及するサッカーの核となる部分だ。どこまでも高めたい、永遠テーマともいえる。

若い選手に混ざり、溌剌とプレーしているのが永井秀樹だ。この日、45歳の誕生日を迎えた。

「大好きなサッカーをつづけられ、しかも大好きなヴェルディにいて、思い入れのある沖縄で誕生日を迎えられるとは。これ以上ない幸せですよ。今年でプロ25年目。こないだバスの後部座席で(杉本)竜士や(井上)潮音としゃべってて不思議な感じだったね。僕がデビューしたとき、彼らまだ生まれてないんですから」

25年のキャリアは山あり谷あり。考え方の違いから周囲と軋轢が生じ、チームに亀裂を入れたこともあった。だが、2014年、東京Vに4度目の復帰を果たして以降の永井は、豊かな経験を若い選手に惜しみなく伝え、パーソナリティの美点がよく出ているように見える。

「僕自身、年を重ねて人間的に変わってきた部分は多少あります。でも、やっていることはいまと大差ないわけです。受け入れてくれる側の態度、環境が大きいと思いますね。別のクラブでは、あいつがいるのは面白くない、目障りな存在だと見られることもありましたが、ここは自分のことを信用し、任せてくれた。その気持ちには応えたい」

これについては、冨樫監督の手腕が大きい。ベテランを短い時間で起用する発想自体は珍しいものではない。凡人にもできる仕事だ。しかし、ここぞというタイミングで使い、なおかつ結果を出させるのは並大抵の技量ではない。背景には準備段階におけるアプローチや周囲とのマッチングなど、緻密な計算がある。

経験の浅い若手だろうと、それぞれプロ選手としてのプライドを持つ。単に年齢が上で、面倒見がよいだけでは尊敬されない。もし、ピッチ上の永井が相応の力を示せなければ、周囲の眼は冷めたものだっただろう。この仕事だけは、冨樫監督以外の誰か試みてもうまくいかなかったと僕は断言できる。

「いまの若い選手は、ヴェルディの強かった時代を知らないからね。早くJ1に戻り、再び日本サッカーを引っ張っていくチームにしたい。そうなって初めて味わう本当の厳しさと楽しさ。それがどれほどすばらしいか、得難いものかを彼らに知ってほしい」

 

 

ここで往年の永井秀樹を読者の皆さんに知ってもらおう。

 

 

これは先輩ライターのえのきどいちろうさん(アルビレックス新潟を応援している)が、今月中旬、岐阜県大垣市を訪ねたときに街角で発見し、わざわざ送ってくれたものだ。

ツッコミどころがありすぎて、どこから手をつけていいやらわからない。1993年、学研から出版されたものらしい。

まず、『永井秀樹の着るセーター』というストレートすぎるタイトル。これが企画会議で通ってしまうのが、当時の人気の凄まじさを思わせる。丸ごと一冊、セーターを着ている永井。それだけで商品になる。同じことをやれるサッカー選手がいまいるだろうか。

隣には、1996年人気が爆発するお笑いコンビ『猿岩石』。こちらもなかなか味わい深いものがある。数年の時差がありながら、なぜこのふたつが並んでいるのか謎である。いま現在、誰のために掲示されているのかはもっと謎だ。

「懐かしいねえ。憶えてるよ。Jリーグが始まった年に出した本」

と、永井は屈託のない笑顔を浮かべた。この間、ずっとボールを蹴りつづけてきた。その事実に僕は圧倒される。

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