【無料記事】【マッチレポート】ニューイヤーカップ FC東京 vs 東京ヴェルディ(2016/01/30)
●東京ヴェルディ スターティングメンバー
GK 31 鈴木椋大
DF 2 安西幸輝
DF 3 井林章
DF 5 平智広
DF 6 安在和樹
MF 28 楠美圭史
MF 11 南秀仁
MF 10 高木善朗
FW 9 アラン・ピニェイロ
FW 18 高木大輔
FW 7 杉本竜士
(ベンチメンバー:GK26太田岳志。DF23田村直也、30高木純平。MF13船山祐二、14澤井直人、16中野雅臣、45永井秀樹。FW17ドウグラス・ヴィエイラ、25平本一樹)
■東京ダービーin沖縄
まさか、東京ダービーが沖縄の地で開催されようとは。1月30日、2016Jリーグ・スカパー! ニューイヤーカップ沖縄ラウンド第3戦、東京ヴェルディはFC東京と対戦した。場所は、沖縄県総合運動公園陸上競技場である。
キャンプ終盤、選手たちの疲労はピークに達している。冨樫監督が「疲れてるか?」と問えば、食い気味に「疲れてます!」と返ってくる。ダービーという特別な一戦に加え、このコンディションでどこまで戦えるかという点にも興味を覚えた。
前半はともに無得点。FC東京に3つの決定機をつくられながら、水際で食い止めた。26分、セットプレーから前田遼一のヘディングシュートが決まったかに見えたが、判定はクリアが認められノーゴール。運にも恵まれた。
後半のキックオフ、バックスタンドに陣取るヴェルディサポーターから、ダービー専用のチャントが響く。
「あれは鳥肌が立ちました。ユースの頃も聞いたことがありましたけど、それとは別ものに感じた」(高木大)
その瞬間、ボールを追う18番の背中に力が漲り、ぐんと加速したように見えた。
ここからは東京Vがやや盛り返し、ボールを回せた時間だ。後半開始からアランを下げ、船山を投入。中盤の底に楠美と高木善が並び、昨季までの基本フォーメーション[4-4-2]に戻したことで、立ち位置を探るような戸惑いは消えた。
が、ゴール前までボールを運べるようになったかといえばそうではない。60分、永井とドウグラス、69分に平本と高木純、78分に田村をピッチに送り込み、その都度形を変化せていったが、アタッキングサードの攻略には至らなかった。
鈴木のファインセーブにも助けられ、スコアは依然として0‐0。守備陣はよく持ち堪えていたが、アディショナルタイムにとうとう決壊する。右サイドのスペースを使われ、中央で待ち構える橋本拳人にゴールを許した。
「自分がボールホルダーに食いつき、平がつり出され、マークがずれてしまった。なぜあのとき軽率に出てしまったのか。最後の最後にやられてしまっては意味がない。正直、あの時間は身体が限界にきていて、判断に狂いが生じた」
と語る井林は、この試合掛け値なしの大活躍だった。空中戦をことごとく制し、的確なポジショニングで相手の侵入を防ぎ、平とともに最終ラインを支えた。J1上位のレギュラークラスと競り合ってもまったく引けを取らない。
セットプレーでは、広島皆実高の先輩である森重真人とマッチアップした。
「対戦を楽しみにしていたのでうれしかったですね。圧倒されるほどの力差を感じたかといえばそうではなかった。自分が成長していくことで到達できる手応えはありました」
■その人がそこに存在する奇跡
さて、問題は相変わらずのゴール欠乏症だ。その前にシュート数の少なさだ。90分でわずか2本のシュートでは勝利の女神もそっぽを向く。まるで昨季の続きを見ているようで、継続路線を取っている以上は間違いなく地続きなのだが、そろそろ新味を出していかなければならない頃合いだろう。
冨樫監督は言う。
「自分たちが主導権を握った時間帯、そこでFWをうまく使いきれなかったこと、クロスに合わせられなかったことは課題として残りました。前に人数をかけ、攻撃の回数を増やしていこうとシフトしたときは、シンプルにボールを入れていく。そのあたりは今後徹底したい」
期待の大きい新戦力のドウグラスは、コンディションがようやく安定し、周囲との関係づくりに取りかかったばかり。この日のプレーはサンプルにならない。また、戦術の幅を広げていく過程で、その答えを求めようとするのは早計だ。じっくり取り組めるのはこの時期しかない。長丁場のシーズンを見通せば、相手に的を絞らせない臨機応変なプラン、次善手の用意は必要になってくる。トライするだけの価値は充分にある。
気がかりなのは始動してまだ2週間、チームの戦い方を定めるのに懸命で、過剰なプレーをする選手が見当たらないことだ。杉本ならサポーターが思わず前のめりになる果敢なドリブル突破。高木善なら素早い身のこなしでマークをはがし、ドリブルやワンツーでボックスに侵入。そして絶妙なタイミングで放たれるシュート。中野雅臣なら「左足でボールを持てば何でもできる」という強烈な自負心。安西幸輝なら、安在和樹なら、いくらでも書き連ねることができる。
僕は沖縄に来て、そんなプレーをほとんど見せてもらっていない。強いて挙げるなら、相手をのんでかかっている南秀仁くらいのものだ。FC琉球戦では股抜きをしくじり、失点のきっかけをつくったが、あの挑戦的で不遜な態度こそが南が南足りえる理由である。その人がそこに存在する奇跡である。むろん、欠点とも表裏一体で、使いどころを誤れば手痛いダメージを負う。だが、丸ごと消えてしまえば、凡百のプレーヤーに成り下がるだけだ。
「ダービーはどんな形でも勝たなければいけない。サポーターの方々にはせっかく遠くまで応援に来ていただいたのに申し訳なかった。と同時に、早くJリーグで本当の東京ダービーを実現させたいと思う。これから上を目指していくのを楽しみに、サポートしてほしい」
トップの指揮官として初めて味わうダービーの敗戦を、冨樫監督はそう締めくくった。借りを返す機会は自らの手でつかみ取るしかない。