「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【この人を見よ!】vol.2 左のスペシャリストとして~DF6 安在和樹~(2016/03/09)

ドリブルで駆け上がる安在和樹。

ドリブルで駆け上がる安在和樹。

東京ヴェルディの左サイドにこの人あり。2013年、ユースから昇格し、翌年以降は左サイドバックのレギュラーに定着している安在和樹だ。最大の武器は、左足のキックである。前線にロングパスを送り、サイドに深く切り込んではゴール前に精度の高いクロスを配給。2015年は五輪代表に選出されるなど、注目度を高めつつある。一方で、「もうひと皮むければ」、「潜在能力を充分に発揮し切れていない」と飛躍に期待する声も。安在の攻守における進化は、チームが昇格戦線を勝ち抜くうえで必須テーマのひとつだ。

■心の真ん中を抜かれた気分

安在和樹は攻撃的なプレースタイルが身上だ。ドリブル、パスを駆使して攻め上がり、ぐいぐい相手を押し込んでいく。繰り返しスプリントできる走力も備える。決め手は卓越した左足のキック。適時、蹴り方、ミートポイントを使い分け、前線に正確なクロスを送る。機を見て放つシュートは、遠めからでもゴールを射抜くほどの威力がある。

一方、ピッチの外に一歩出れば、人が変わったように穏やかだ。受け答えはおっとりしていて、淡々と一定のテンションで話す。

「いつもヘラヘラしているとは言われますね」

でしょうね。けれども、サッカー選手として上を目指す気持ちは持っているんでしょ?

「もちろん。それがなければ選手をやっている意味がないです。一番上まで行きたい。代表にも入りたい。将来はヨーロッパでプレーしたい」

言葉としては、わかる。ただ、いまいち真に迫ってこないというのかな。どこまで本気でそう思っているのだろうかと。

「思ってますって。言葉にするのってムズカシイ。勉強はまるでダメだったんで」

冨樫剛一監督は、安在について次のように話した。

「受け取る側によっては、彼の言葉や態度が誤解を与えることがあるようです。『あいつはなめてるのか? ふざけているようにしか見えないぞ』と、ほかの指導者から言われたことも。1年ぐらいして、『なるほどね。人と違うところを見ているんだな』と評価が変わりましたけどね」

これに関して、身に覚えは?

「誤解されていることもあるのかなあ。誰とでもしゃべれるし、合わせられる。育成の頃からいろいろな指導者の方にお世話になっていますが、特に苦手な人もいなかった」

もっとできるのに、と言われることは?

「よく言われます。はい、頑張りますと。それしか返しようがなくて」

これだけ打っても響かないとかえって面白くなってくる。どうにかして核心に触れたい僕は、手を変え品を変え、いろいろな質問をしてみた。安在が熱をもって語ったことのひとつが、東京ヴェルディユース時代の回顧だった。

16歳の秋、ユースの1年目。安在は左ひざの半月板を損傷し、全治6ヵ月。ようやく復帰した試合で、今度は親指を骨折した。計8ヵ月、サッカーから離れることを余儀なくされた。

「心の真ん中を抜かれた感じで、何をしても楽しくない。サッカーは自分そのものだったんだなあって、そのとき再確認できました」

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