「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【新東京書簡】第一信『しばらくぶりです』海江田(2016/04/12)

新東京書簡

第一信 しばらくぶりです

どうもご無沙汰しております。緑者のライター海江田です。

初回だから、『トーキョーワッショイ!プレミアム』、『スタンド・バイ・グリーン』両方の読者に一応説明しておこう。後藤さんとおれ、ずいぶんと昔、サッカー専門新聞『エルゴラッソ』で『東京書簡』という連載コラムをやってたんですよ。文字どおり、往復書簡のスタイルで。

何年くらい続けたかな。東京ダービーに負けて、おれが坊主にさせられたこともあった。ちくしょう、ササ・セルサードめ。編集部に証拠写真を送ったら、もっと柔和な表情でとリクエストがあった。誰がニッコリ笑えるかっつうの。連載の最後のほうは担当編集から放っておかれ、自然消滅。なんと最終回を書いてない。商業媒体でそんな尻切れトンボ、珍しいよね。

で、こっちが今年からWEBマガジンを始めたから、それならまた一緒にやろうよ、ということになりました。おれらは『東京書簡』に愛着を感じながらやっていたから、タイトルは継続。構わないでしょ。あちらは雑に捨てた連載なんだし。では、読者の皆さま、どうぞよろしくお願いします。以上!

■アグー豚を焼きながら

後藤さんとは1月のニューイヤーカップ沖縄ラウンドで、東京ダービーがひっそりと実現したときに会ったね。教えてもらった那覇のフットボールカフェ『カンプノウ』、ほんといいお店だった。

そのときさ、東京から知り合いのヴェルディサポーターが応援にやって来たんだ。沖縄観光を兼ね、家族連れで。せっかくだから一緒に晩ごはんを食べようとなって、焼肉屋に行った。牛カルビやらアグー豚をじゃんじゃん焼きながら、「美味しいね。この豚、マジやらかいね」と楽しくやってたの。したら、その人がぐびぐび飲んでいたビールジョッキをテーブルにゴンと置き、言ったんだ。

「おれ、ヴェルディがJ2だと思ってないスから」

てっきり冗談かと思った。違ったよ。顔は笑ってるけど、眼は真剣なの。おれは視線のやり場に困って、奥さんに抱っこされてミルクを飲んでる赤ちゃんの顔をまじまじと見ちゃった。あんたの父ちゃん、イカれてるぜ。

「いや、どうしてもJ2のクラブとは思えないんスよ」

えっ、だったらどこにいるの? 宇宙? 四次元空間? 何を言っても「おれのなかではトップだから。日本一のクラブだから」の一点張り。それでいて、ちょっと照れてるんだ。

「こんなことを言うのは、自分でもヘンだってわかってるけど」

意固地でいじらしい態度が可笑しくて、おれはその人のことがより好きになった。だいたい、発言の根拠がむちゃくちゃなうえ、照れてる理由がさっぱりわからない。長年、サッカーを好んで観てきたけど、自分は特定のクラブのサポーターだった期間が一切ないから、羨望のまなざしを向けた。

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