【無料記事】【マッチレポート】J2-12[H] 松本山雅FC戦『すべてにおける敗北』(2016/05/07)
■この日のスタジアムの光景
ハーフタイム、冨樫監督は交代カードを1枚切る。杉本に代え、高木善を投入した。
「前半、選手がだんだん自信を失っていき、隙間が空いているにも関わらず、長いボールを蹴って失うことが多かった。自分たちがゴール前に進出できたときは、相手のボランチの脇や空間を使えていたので、善朗にそこの空間で受けさせ、4‐2‐3‐1の形でボールを運んでいこうと考えました」(冨樫監督)
高木善は中盤で積極的にボールを受け、チームの落ち着きに一役買った。一方、中野の左サイドは相変わらず松本の攻撃にさらされている。冨樫監督は中野の攻撃力に可能性を見出したのだろうが、分の悪いギャンブルだったように思う。
51分、松本は中央突破から高崎が2点目。58分、東京Vは楠美を下げ、故障から復帰したばかりのドウグラスをピッチに送り込む。だが、59分、またも左サイドに展開され、高崎に豪快なヘディングシュートを決められた。
0‐4。完敗である。4点差となってから、冨樫監督は安西を左サイドバックに移し、中野を1列前に出しているが、遅きに失した処置だった。攻守の要として東京Vを牽引してきた中後は、コンディションが整わないせいだろう、ボールへの寄せが甘く、信じられないようなパスミスを何度も犯した。
松本戦の前日、僕は竹本一彦ゼネラルマネージャーに訊ねている。監督を代える可能性はあるのか。代えるとしたら、判断材料のなかで何を最も重視するのか。
「その考えはいまのところありません。故障者が多い影響で、メンバーがなかなかそろわなかった。アクシデントによるチームづくりの遅れは考慮すべきだと思います」
それはその通り。中軸として期待される中後とドウグラスはこの日初めて同じピッチに立った。
「監督が求心力を失ってしまうと、チームの立て直しは厳しいですね。前任者のように、監督と選手がコミュニケーションが取れない状態になったら、決断を下さざるをえない」
僕の知る限り、その事態には陥っていない。むしろ、一部のアカデミー育ちの選手はこのまま終わらせてなるものかとファイトを燃やしている。では、夏の移籍ウインドーで補強の考えはあるのか。
「クラブ全体で努力し、そう持っていきたいと進めています」
竹本GMはこう語るにとどめた。
松本戦、スタジアムの光景は衝撃だった。ざっと見たところ、メインスタンドからゴール裏まで、東京Vの4倍から5倍のサポーターが埋めている。松本のJ2昇格初年度の2012年、すでに観客数では負けていたが、チームが力の差を見せつけて2‐0で勝利し面目を保った。ところが、いまはどうだ。チームもサポーターも、段違いの大差をつけられている。圧倒的な敗北感だ。
反町監督のコメントが胸に突き刺さる。
「ホームのような雰囲気を作ってくれたサポーターの皆さまにも感謝しております。われわれがJリーグデビューしたとき、ヴェルディには何もできませんでした。それを考えると、チームも進歩したなとうれしく思います。このクラブに携わる全員が努力した結果であり、さらに皆さまを喜ばせられるよう、どんどん上に突き進んでいきたいと思います」
これを見せられ、聞かせられ、誰がとぼけたふりをできようか。考えようによっては、変わるチャンスを与えられている。
これまでの東京Vは、なぜ苦しいときに誰かが矢面に立ち、情理を尽くして語りかけようとしなかったのか。クラブ内にそれを評価するシステムがないからだ。あるのは、沈黙は金。ただそれだけ。資金やマンパワーが足りずとも、できることだ。やれることをやっていないだけである。
クラブには、3年先、5年先を見て、仕事をするスタッフがいる。種まきの仕事は、金銭的な面ではすぐに貢献するものではない。浅い見方しかできない人には、街をふらふらして遊んでいるように見える。だが、クラブが恒常的に発展していくためには必要な仕事だ。現在苦しい立場に置かれる冨樫監督もまた、まぎれもなくそのひとりである。彼らに評価を与え、きちんと繋ぎ止めることだ。長年にわたり、現状に至る組織づくりを進めてきた羽生英之社長の責任は重い。
人を使い捨てにしてきた成れの果てが、この日のスタジアムの光景である。
【ハイライト】東京ヴェルディ×松本山雅FC「2016 J2リーグ 第12節」