【無料記事】【フットボール・ブレス・ユー】第6回 大人は判ってくれることもある~東京ヴェルディユース~(2016/05/18)
「最後まで攻撃的な姿勢を失わずに1点返した。それが今日の収穫ですね。チームの目標は日本一。ゲームの主導権を握りつつ、相手をきちんと見ながらサッカーをできるようにするのが僕の仕事です。基本は、ピッチ上で100%全力を出し切る。サッカー以外も100%で。そうしてすべてをやり切った者だけが味わえる楽しさを選手たちに残したい」
藤吉監督はこう語った。選手たちに課したルールとは、どういったことなのか。
「昨年のチームは選手たちの自主性を重んじるやり方をしました。今年の選手たちの行動を観察し、ある程度細かいルールを設定した方がいいだろうと判断したんです。狙いは、タイムマネジメントを上手にできるようになること。サッカーと生活の両方を成り立たせるのが目的です。たとえば、帰宅時間とかね。早く家に帰り、睡眠時間を確保することは、身体の成長にとって非常に大事なことですから。しばらくしたら、あいつら僕に言ってきましたよ。ちゃんとやるから自分たちの自主性に任せてほしいと」
藤吉監督、小笠原資暁コーチは「本当に時間の使い方を工夫したのか?」と選手たちに問いかけ、話し合いの結果、いったん差し戻すことになったそうだ。
このやり取りは意義深いなあ、と僕は思う。選手たちは、自由は与えられるものではなく、主張してつかみ取るものだと知った。
こういう監督と選手の話、特別な結びつきに触れると、うらやましくなるね。フランス映画の古典『大人は判ってくれない』じゃないけれど、僕はその年頃でそんな大人とはひとりも出会わなかった。青春期を過ごした80年代の風潮もあったと思う。大ヒットした『ぼくらの七日間戦争』。ヒロインの宮沢りえの輝きといったら、現代のアイドルが束になっても相手にならない。尾崎豊の『15の夜』にすっかり感化され、教科書に落書きし、校舎の裏で煙草をふかし、盗んだバイクで走りだすのが青春だと信じて疑わない者もいた。ほんとにバカだったなあ。
多少の行き違いはあっても、「いつも僕らのために一生懸命考えてくれている」(大久保)と気持ちは伝わっているのだから大丈夫だ。そういう大人と日常的に接する機会があるのは、じつに得がたいことである。
それとね、選手の君たちが思っているほど、大人は大人じゃないんだよ。立場上、堂々と見せてはいるけれど、迷いもするし、不安もあり、傷つきもする。そういうことはしばらくあとになってからわかるだろう。
時に、大人の理不尽なやり方に腹を立てるのは、悪いことばかりではない。こんちくしょうと、怒りでメキメキッと背が伸びる。とやかく口を出されない領域を早く手に入れたいと、心の芯が強くなる。それはそれで大事な通過儀礼だと思ってくださいな。
※連載コラム【フットボール・ブレス・ユー】は、隔週水曜日に更新していましたが、変更の可能性があります。