「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【新東京書簡】第五信『崎陽軒のシウマイ弁当』海江田(2016/08/31)

新東京書簡

第五信 崎陽軒のシウマイ弁当

■容器にくっついたごはん粒

こないだ関西方面で取材があってさ。新横浜で崎陽軒のシウマイ弁当を買って、新幹線に乗ったんだ。特に好物というわけではないんだけど、つい買っちゃうね、シウマイ弁当。

で、いつものごとく、最後のほうは弁当の容器にくっついたごはん粒と格闘していた。なかなかきれいに取れないんだよ、あれ。ひと粒ずつ箸でつまんで口に運ぶ。ひたすらその繰り返し。正直、めんどくさいと思う。

あの容器、松の天然木なんだって。コンビニ弁当みたいなプラスチック製なら、ああはならない。つるりとご飯が取れ、苦もなく平らげられる。

でも、誰も崎陽軒に文句を言わないね。シウマイ弁当はこういうものだって、わかってるから。おれも口ではぶつくさ言うけれど、これでいいと思っている。天然木を使うのは、伝統以外に何らかの理由があるんだろうし(シウマイの水分をうまく逃がすとか? 木の香りも?)。もし、近代化の名のもとに容器の素材を変えたら、逆にクレームが殺到しそうだよ。

シウマイ弁当をもそもそ食べながら、これってサッカークラブだなあ、そんなふうにおれは思った。恒久的な存在を目指すクラブの形、本質がここにある、と。

みんな、自分の好きなチームを応援しながら、不満のひとつやふたつはあるだろう。アクティブな人は改善を働きかけるかもしれないが、ほとんどの人はじっと黙っている。うちのクラブの性質であり、それもカラーの一種として達観している。シウマイ弁当の容器にくっつくごはん粒のように。腹を立てるどころか、しゃあないと好意的に受け止めさえする。

このシウマイ弁当の域を、どのクラブも目指している。人ぞれぞれ不満を覚えるポイントは異なり、ゼロになることはありえない。できることは特有の疵、短所を許容し、そこに愛着を感じてもらうことだけだ。そうなればしめたもの。堅固なベースを強みに、安定して利益を上げられる。

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