「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【直前インフォメーション】J2‐42[A] FC岐阜戦のポイント(2016/11/20)

■変化は水面下で起こっている

今週の練習で、僕が目を留めたシーンをいくつか書き出そう。

紅白戦、最初はメンバーから外れていた中野雅臣が、途中から入り右足でゴールを決めた。楠美圭史が的確な状況判断で、ゴールを割りそうなボールをスライディングでかき出した。大木暁と北脇健慈のバトルはじつに見応えがあった。ライン際の争い、大木が一度はボールを奪われながら、強引に身体をねじ込んで奪い返した。ラインを割ろうが笛が鳴るまではお構いなしと、身体をバチバチぶつけ合う音が真剣勝負の迫力を伝えた。

いずれの奮闘も、表舞台で披露するには間に合わなかった。いつか日々の積み重ねが実を結んでほしいと切に願うが、これが必ずしも約束されないのはプロの世界に限ったことではない。

「果たせなかった思い、起こらなかったことも歴史の一部には違いない」という考え方を僕は好み、現実世界はそれを内包するからこそ輝きを放ち、苛烈に感じられるものだと捉えている。もし冨樫監督の仕事に懸ける情熱が綿毛のように軽く、あるいは利己的な欲求に基づくものであれば、ずっと気をラクに今季の東京Vを見ていられただろう。

本来、報酬に対して結果で応えるプロ監督と、選手を正しい方向に導く指導者は別種の能力が要求される。両者を高いレベルで合わせ持つのがスーパーな指揮官だ。豊かな資金力をバックに選手をとっかえひっかえできる一部のクラブを除き、どこの現場トップも育てながら勝つことに苦心し日々を送る。

冨樫監督の約2年半に及ぶ監督業の成果は、今季の成績が示すとおりだ。一方で、指導者として選手に何を残したかは、しばらく経過を観察しなければ判明しない。

ラストゲームとなる岐阜戦は、冨樫監督の残した仕事の一端が見つけられる試合になるといい。ずっと言い続けた、己のすべてをピッチで表現するということ。仲間と協力し、勝利に向けて太いベクトルを向けること。後押しするサポーターのために戦うということ。

岐阜には残留が懸かり、東京Vは結果が今後に影響しないゲームだ。だが、選手たちはその状況に頓着せず、持てる力を出し尽くそうとするに違いない。ただのガキンチョだった自分が、どう変わったかを見てくれと。おれとあなたが目指したヴェルディは、たしかにここにあるぞと。

 

※【直前インフォメーション】は、試合当日のキックオフ4時間前に更新します。スタジアムへ向かう電車のなかや、待ち時間のおともにどうぞ。

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