【無料記事】【フットボール・ブレス・ユー】第21回 ベレーザは飛んで行く(17.5.24)
10番を背負う、籾木はこう語る。
「相手からのマークが厳しくなっても、点を取り切る力をつけないと。その点はまだまだですね。引き分けで終わる試合をなくしていきたい。10番はあくまで飾りと思っていますが、周りはそう見てくれないし、いままでベレーザで10番を付けたのはめっちゃ巧い選手ばかり。でも、そんなにプレッシャーは感じません」
ベレーザの勝者のマインド、スピリットはどう受け継がれているのか訊いた。
「思い浮かぶのは、(育成組織の日テレ・)メニーナ時代ですかね。テラさん(寺谷真弓メニーナ監督)の指導が厳しかったので。サッカー選手として生きるためのメンタルをつくってもらったと思います」
長谷川は今季の目標を次のように話す。
「獲れるタイトルは全部獲りたい。相手を圧倒して勝つ。そして、観ている人たちが楽しめるサッカーを。ベレーザに昇格してから先輩たちと身近に接し、いつか自分もこうなりたいと思うことはたくさんあります。たとえば、ここぞというときに発する、チームを引き締める声。イワシさん(岩清水梓)のように、存在感が目立つ選手になりたい」
欲張りなところが、たぶんこの人のいいところだ。
長谷川については、寺谷がおもしろいことを聞かせてくれた。
「唯は悪ガキでね。しょっちゅう周りに文句を言っていて、それでシメたことがあります。仲間との関係が悪くなると、その後に響くと思ったので。メニーナに入った中1の頃は、とにかくちっちゃかったですよ。たしか135センチで、体重は20キロ程度。その小さな身体で、まあ自己主張が強かったこと」
やたらと気の強い、キャンキャン吠える、小さな女の子の姿が浮かぶ。寺谷は長谷川をしばらく試合で使わず、中2の夏を過ぎてからチャンスを与えていった。足元のテクニックに偏った選手と見ていたが、やがて全体が広く見える特長にも気づいた。そして、いま長谷川はベレーザの中軸を担い、なでしこジャパンのメンバーにも名を連ねる。
「代表にはもっと早く入ってほしかったです。能力的には、充分そこに値する選手でしたから」
こういったところでも、寺谷は甘い顔を見せない。
厳しさを持って他者と接する人は、すべての人から好かれる可能性を放棄する。ときには心を鬼にして、嫌われ役を買って出るのだ。しかも、寺谷は愛想を振りまけるタイプの人でもない。面識を得てからそれなりに経つ僕ですら、気安く話しかけるのはためらわれる雰囲気がある。
選手は険しい坂道を登り、ふっと息をついて振り返ったとき、自分が手にした広い見晴らしに気づく。そうして、若かりし日に投げかけられた言葉を噛みしめ、感謝する日が来るのだろう。それはとても尊く、幸せなことだと思う。