「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【インタビュー】A Secret on the Pitch ピッチは知っている〈3〉 柳沢将之(東京ヴェルディ1969フットボールクラブ株式会社 普及部) 後編(17.8.1)

■ヴェルディをじゃんじゃん広める

――このクラブで育ち、選手としてプレーし、そして外の世界を見た人にしかわからないことがあると思うんです。今後、東京ヴェルディが発展していくために、大事にしていきたいことは?
「どの世界でも基本は同じだと思います。サッカーと一緒で、誰かが抜かれてもカバーすることが大事。仕事も助け合いです。物事がうまく運ばないとき、あいつのせいだというのは簡単に言えます。チームとして、どう取り組むかが重要になる」

――それって、献身性が服を着て歩いているような柳沢将之のプレースタイルそのものじゃないですか。味方のために骨惜しみせず、その分自分が走ればいいんだと。
「いやいや、でもそれって大事だと思いません? サッカーでも会社でも。そこで欠かせないのがコミュニケーションをしっかり取ること。周りに助けてよって言える人はいいんですが、苦しいのに自分で抱え込んでしまう人がいます。毎日挨拶してて、あれ、今日雰囲気違うなと思ったら、どうしたの? なんかあった? と声をかけてあげる。それだけでだいぶ違ってくると思います」

――それをナチュラルにやれるのが柳沢さんの美点です。あと僕がとてもいいなと思うのが、スタジアムで子どもたちとミニサッカーをしているとき、すっごく生き生きとしていますよね。クラブハウスにいるときも、いつも楽しそうに仕事をしている。
「そのへんはもともとの性格かなあ。どうせやるんだったら、楽しくやったほうがいい」

――普及の仕事を通じて感じることは?
「ヴェルディのことを知らない子の多さは痛感します。子どもだけではなく、親御さんもそう。20代から30代前半の若いお母さんだと、知らない人が多いです」

――ショックだけど、それが現実か。
「そんな状況では悲しいので、じゃんじゃん広めていかないと」

――普及のスタッフは何人いるんですか?
「クラブが契約しているコーチは10人で、手伝ってもらえる外部のスタッフを含めれば25人います。ただし、専従で動ける人間はそれほど多くないので、やり繰りが必要です」

――近隣のクラブは、そこにもっと人数とパワーを注いでいますよ。
「たしかに人はいればいるほどいいんですが、人数が足りないなら質を上げるしかない。質を上げるには、まずはベクトルを合わせないと。普及は、子どもにサッカーを好きになってもらうのが最初の一歩です。そのためにはコーチがしっかりまとまっていなければダメ。コーチ陣のコミュニケーション強化の一環で、こないだ初めてミニゲームをやりました。昔はよくやっていたらしいんですけどね。そうして互いのことを知り合い、ピッチの外でもサッカーの話をたくさんする。このへんが一番大事だと思います」

――柳沢さん、今日お話をうかがって、僕の言いたいことはひとつだけです。差し出がましいこととは存じますが、どうかできるだけ長くヴェルディでの仕事を続けてください。辞めないでください。これまで僕はさまざまな人たちを見てきて、がんばっていたんだけど、そのがんばりが報われずに気持ちが萎えてしまったり、事情があってクラブを離れることになったり、さぞかし無念だろうなと思ってきました。もどかしいことがたくさんあるでしょうが、ここはひとつ持ち前で粘りで!
「もちろん、そのつもりですよ。クラブの伝統は大切ですが、そこにしがみついているばかりでは前進しない。新しいものを採り入れながら、ヴェルディのためにやっていきます」

 

◎柳沢将之(やなぎさわ・まさゆき)
1979年、神奈川県生まれ。読売日本SCユース‐法政大‐東京ヴェルディ1969‐セレッソ大阪‐サガン鳥栖‐横浜FC。現役時代は豊富な運動量を武器とするサイドバックで、キャッチフレーズは「ハマの不沈艦」。気さくな人柄で多くのサポーターに親しまれた。2012年1月、現役引退を発表。食品大手プリマハムグループのプライムデリカ株式会社で5年間勤務したのち、サッカー界に復帰。2017年3月から東京ヴェルディ1969フットボールクラブ株式会社の普及部に加わった。

クラブハウスの受付。奥に柳沢さんのデスクがある。

クラブハウスの受付。奥に柳沢さんのデスクがある。

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