「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【トピックス】検証企画『微妙な判定を振り返る』(17.9.22)

世の中、こんなわかりやすいハンドばかりじゃない。

世の中、こんなわかりやすいハンドばかりじゃない。

■ルールをどう運用するか

今回は、ちょっとしたサッカーのルールのお勉強の時間です。

先日、読者の羊さんからご指摘をいただき、これはほかの方々にも有益なネタだと思ったものですから、ひとつの検証企画としてお届けすることにしました。

本来は東京都サッカー協会の審判委員会あたりを訪ねるべきなんでしょうが、一から事情を説明して資料映像を持参する必要があるなど(DAZNは過去の試合がすぐ消えちゃうし)、手続きが大変。そこで、すでに事情を把握済みで、ルールをよく知るクラブスタッフに相談を持ちかけています。サッカーにはわずか17条のルールしかなく、どう運用するかは人間次第。そこには解釈の幅が生まれ、ああだこうだ言い合うのも楽しみ方のひとつです。

付き合ってもらったのは、チームの現場サイドに近いAさんと、試合の運営管理の仕事を知るBさんです。各々の解釈はフランクに話してもいいんじゃないかと思いますけど、そうもいかない事情がありまして匿名とさせていただきます。

Case1 : J2第24節カマタマーレ讃岐戦の安在和樹と高木善朗によるコーナーキックのトリックプレーについて

水戸戦前、讃岐戦後の記事について。海江田氏は安在和樹との話の中で、讃岐戦後半に行われたトリックプレーについて「旗を振ってゲームを止めた副審ね。わりと有名なトリックプレーなのに知らなかったのかな」と述べていらっしゃいますが、昨年の競技規則改正により、あの手のトリックプレーは一切できなくなっています。競技者によってボールが蹴られ、“明らかに動いていなければならない”のです。

競技規則 2016/2017 質問と回答集には以下のように明記されています。

Q2: 明らかに動くとはどういう意味か?

特にコーナーキックの際、相手競技者にはまだボールがインプレーになっていないかのように、競技者がボールに軽く触れた後、そのチームメイトがボールをドリブルするような行為が見受けられ「公正・公平(フェア)」に関わる問題が増えてきた。今回の改正で、ボールは明らかに動かなければインプレーにならないと競技規則に明記した。「明らか」は、主審の判断となるが、周囲から見ても明白に動いていることが確認できることである。

なんと、そんな経緯があったとは。僕は競技規則の改定は把握していましたが、質問と回答集の存在はビタイチ知りませんでした。

映像を見る限り、安在と高木善が入れ替わろうとするとき、ボールは30センチほど動いています。足先でチョンと蹴ったとしても「明らか」「明白」という解釈は成り立ちますが、やはり近くの副審にきちんと目視してもらえるように、蹴る前に意味深なウインクのひとつでも投げておけばよかったのか。それとも、何をどうやったところで結果は同じだったのか。

Aさん「副審の方がキックの瞬間を見逃されたのか、あるいはボールが自然に転がったと解釈されたのか。周知が不充分という点があったにせよ、あのトリックプレーが不可能という認識ではないですね。一旦、インプレーになったと判断されれば、それを妨げるルールはありません」

Bさん「4人の審判員はインカムでつながっていますから、すべての情報は共有されます。別の審判団だったら、違った判断が下されていた可能性はあったと思います」

往生際が悪く聞こえるかもしれませんが、理屈のうえでは一応そうなります。ただし、ルール改正の経緯からして事実上極めて困難というのが僕の見解です。

相手にモロバレになる危険を冒してまでわざわざやるプレーか。やり直しになるリスクと、見込まれる成果が釣り合うのか(失敗してもどうせやり直しになるだけでリスクはないという開き直りもありますが)。答えは、否。もう二度と見られないかもしれない貴重なシーンを目撃したと思いましょう。

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