「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【フットボール・ブレス・ユー】第27回 群馬の夜(17.10.19)

第27回 群馬の夜

正田醤油スタジアム群馬の記者控室は騒然としていた。

10月15日、東京ヴェルディはザスパクサツ群馬のホームに乗り込み、逆転勝利を挙げる。苦戦の末、薄氷の勝利だった。渡辺皓太は「相手の気迫を感じました。全員で声を出し合って守り、前にボールを入れてもすぐに潰される。その繰り返しで、なかなかボールを持てない時間がありました」と語っている。

ロティーナ監督は会見でこう話した。

「群馬に対しては、最大のリスペクトを払いたい。彼らはすばらしい試合をしました。とても難しいシーズンになっていますが、今日見せた姿勢やプレーの質を考えれば、J3に降格してもJ2に戻ってくる力はあると思います」

いつもこんな戦いぶりができれば、と人は言う。だが、人間は機械ではない。常時高い出力は維持できず、好不調の波があるシーズンを通してのパフォーマンスこそが地力である。

これにより群馬は5試合を残し、J3降格圏の21位以下が確定した。21位のレノファ山口FCとの勝点差は9。得失点差が25もあり、実質的には勝点10差だ。最下位脱出も厳しい。あとはJ3の昇格枠に入るチーム次第となるが、J2ライセンスを持つ栃木SCが3シーズンぶりの返り咲きを期し、首位を走っている。

スタンドには群馬のサポーターが居残り、クラブの責任者に対し抗議の声を挙げていた。記者控室は人の出入りが激しい。群馬の地元メディアは誰もが険しい顔で、取材に奔走している。新聞は締切りが近いのだろう。席に戻ってキーボードを嵐のように叩き、また出ていった。

一方、隅っこでは東京Vのスタッフが劇的な勝利をサポーターに届けようと、オフィシャルサイトやSNSで発信する写真のセレクトに余念がない。こちらは当然笑顔。3連勝で、昇格戦線に生き残った。通常、この作業は別室で行われることが多いが、会場のスペースの都合、やむを得ない場合もある。

悲嘆と喜びの同居。そんな眺めである。

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