「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【フットボール・ブレス・ユー】第27回 群馬の夜(17.10.19)

群馬のスタジアムグルメ、永井食堂のもつ煮(500円)。旨い。

群馬のスタジアムグルメ、永井食堂のもつ煮(500円)。旨い。

僕はといえば、ひと通り仕事を終え、『群馬サッカーNEWS Gマガ』の編集長を務める伊藤寿学を待っていた。古い付き合いで、帰りは前橋駅近くのホテルまで送ってもらい、ついでにごはん食べようよと話していたのだ。

日が悪かった。記者控室は修羅場と化しており、仕事の邪魔になってはならぬとできるだけ顔を合わせないようにした。また今度ねと先に引き上げてもよかったのだが、その今度はいつになるのか、遠い先になるような気がして言い出せない。

キックオフ時刻が19時半と遅かったせいもあり、結局、スタジアムを出るのは日付をまたいだ。初めてのことだ。まさか群馬でこれを経験するとは思わなかった。

「あーあ、真っ暗だよ。先が見えない」

伊藤の言葉が合図のように、スタジアムの照明がガチャンと落ちる。辺りは正真正銘の暗闇に包まれた。「映画みたいだ。あんた、すげえな」と驚く僕に、伊藤は苦笑いだ。

敷島公園の闇のなか、駐車場までふたりで歩いた。途中、こんな日でも笑顔を忘れないクラブスタッフから「おつかれさまでした!」と見送られ、最後まで残っていたサポーターと伊藤は短い言葉を交わしていく。

現地にいた東京Vのサポーターは、横断幕の掲げられた群馬のゴール裏の光景を目の当たりにし、他人事とは思えなかったはずだ。同じようなことが過去にあり、自分たちはそこから遠いところにきたと言い切れる人がどれほどいるだろう。

「どん底のときって、大富豪(大貧民とも)で4とか6ばかりのクズ手で勝負しているような気分になるよなあ」と僕は言い、「いいカードはあったんだよ。でも、自ら捨てちゃったから」と伊藤はやけっぱちに答えた。

ただし、サッカーは、クラブ経営はカードゲームではない。使い方によって、数字は大きくも小さくもなる。都市部と地方では、生かされるカードに違いも出てくる。

東京Vの場合、数少ない絵札になりうるカードが、渡辺のような選手を生み出す育成組織だった。一方で、緊急事態に血相を変えて向き合う地元メディアのパワーは東京Vにはないものだ。

丹精込めて育てれば価値を増していくカードがあれば、一切変化しないカードもある。一部は相関関係にあり、隣のカードが抜けたら飛躍的に伸びるケースもある。大事なのは、ここの見極めだ。総とっかえはできないのだから、将来性を含めて資源を有効に活用していくほかない。

世界は、不平等にできている。与えられた条件のなかで、面白がり方をどう工夫していくか。やがてはそれがクラブのカラーとして定着していく。

固有の何かを発見し、鍛え、守り育てていくのは地場の人だけの楽しみだ。負けるな。

 

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